言葉の墓場

殺伐大学

蛍蛾

 今日、黒い蛾が死んだ




 家に入ってきたから死んだ




 夏の終わりに生まれてきたから




 秋の始まりに生まれたせいで




 悪いことなど何もしていない




 一匹の黒い蛾が死んだ




 羽には白い模様がついて




 きっと月に似て煌めいたろうに




 頭部にはオレンジの点つけて




 太陽のごとく輝いたろうに




 黒い体表、その色は




 昼にあって夜の暗さとなり




 雲間に溶けて羽ばたいたろうに




 けれども、もう黒い蛾は死んだ




 サンダルの裏に中身をぶち撒け




 潰れて、触覚は取れてしまい




 羽は四方に捻じくれて




 ティッシュにくるまれ汚物のように




 摘ままれ捨てられ忘れられ




 かつての夜空を思うのか




 月の明かりを希うのか




 死んだ黒い蛾は答えずに




 ゴミの一つになっていた

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