ある日『死神』にとり憑かれまして。
黒い猫
プロローグ
第0話
「うん、うん……」
世の中には、都合よく物事が進む場合がある。
「頭痛は?」
「大丈夫」
「その他、何か体調面で気になる事は?」
「とっ、特には……」
でも、そんな物事が上手くいく事なんてほとんどなくて、上手くいくのは本当に……本当に稀だ。
「……うん、レントゲンも特に異常は見られない……と」
でも、そんな思い通りにいかない世の中だからこそ面白い……。なんて言う事が出来れば、どれだけカッコいいだろう……なんて思う事はあっても残念ながら私。
「うん、よし。大丈夫!」
診断書とレントゲンを交互に見比べていた医師の一言に私はホッ……と胸を撫でおろした。
「でも、よかった。ここ数ヶ月ずっと頭痛が治まらないって言っていたからさ」
そう言って笑いかけてくれているのは、私の『伯父』に当たる『
「心配かけてごめんなさい」
「うん、異常もなさそうだけど何かあったらすぐに言うんだよ?」
ただ、勝幸伯父さんは昔からちょっと『心配性』なところがある。
「うん、分かった」
「お大事に」
勝幸伯父さんの言葉に私はカバンを肩にかけ、軽く手を振って答えた。
「日和さーん。日和昴さん」
診察室から出てすぐに呼ばれた。
「はい」
「本日の診察料はこちらになります」
「えっと……はい」
私はいそいそと財布を取り出した。
「それにしても……」
「はい?」
突然、お客さんに対する形式的な口調から普段通りの口調に変わり、私は思わず顔を挙げた。
「いや、何事もない……って顔をしているから」
「えー……っと」
この人は伯父さんのお嫁さんで名前は『
「実際、何かあったの?」
「あっ……と」
そういう聞かれ方をされてしまうと……正直言葉に詰まる。
「……」
「??」
チラッと診察室の方を見ている私に琴葉さんはニコッと笑いかけた。
「……大丈夫、あの人には言わないから」
「……」
そう言われても、言いにくい。別に「恥ずかしい」とかそういう話ではなく……それ以前の問題である。
「??」
「えっと……言っても信じてくれない……と思うので」
「え? もしかして……そういう類?」
普通の人であれば「言っても信じてくれない」と言っても何のことだかサッパリだろう。しかし、琴葉さんは少し『このての話』が分かる人だった。
「……」
琴葉さんの言葉に私は無言でうなずいた。
「えっ……と、ちなみに?」
「ある日、死神にとりつかれまして……」
「……は?」
「あっ……ははは」
乾いた笑いをしながら私は診察料金を琴葉さんに渡し、そそくさとその場を後にした――。
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