シモーヌ編 全力を尽くす

<心停止しているもう一人のレックスのコピー>


を、生命維持装置そのものとなった高仁こうじんとホビットMk-Ⅱが支える。もちろんこれで必ず助かる保証はないものの、少なくとも何もしないよりは可能性は高くなるはずだ。


先に久利生くりうがコーネリアス号に到着し、医療室にて受け入れ準備を行う。もっとも、久利生くりう自身が行うのは、オペ服に着替えて殺菌ミストを浴び、さらに手指の消毒を行うくらいだけどな。それ以外の準備については桜華おうかとドーベルマンDK-a及びドーベルマンMPMらが行ってくれていた。


そして、


「お願い、レックスを助けて……!」


シオが、着替える前の久利生くりうに縋りついて懇願した。ただ、


「だけど、もう一人のレックスは助かってるんだよね。なんかすごく複雑な気分だな。感情が自分でも分からない……!」


とも口にする。


確かに。レックスが二人現れて、一人は健在。もう一人は心停止状態と、真逆なんだ。喜んでいいのか取り乱していいのか、それこそぐちゃぐちゃだろう。


「ああ、全力を尽くす」


久利生くりう自身は、


『必ず助ける』


とは口にしない。軍人でありつつ医師でもあった彼にしてみれば、<絶対>という言葉の頼りなさ不誠実さについては、嫌と言うほど味わってきてるだろうし。


オペそのものは医療技術の発達もあって、助かる命も増えた。かつては決して助からなかったであろう事例でも、医師のオペと治療用カプセルによって、心臓も肺も完全に破壊された状態の患者でさえ、後遺症もなく回復することもあったそうだ。さすがにそういうのは『奇跡に近い』事例ではありつつな。


だから今回の事例も、助かる可能性はないわけじゃない。


久利生くりうが準備を終えたところに、アリアンが到着。緊急事態だからそうかい達には悪いが直接コーネリアス号の前に着陸させてもらった。そうかい達も、警戒しながらも怯えながらも、敵ではないとは理解してくれているようで、パニックにまでは陥っていない。


そんな中で、ドーベルマンMPMらが担架を持って駆け付ける。地面が舗装されてないからストレッチャーだとかえって危険だしな。


こうして高仁こうじんとホビットMk-Ⅱが生命維持装置として付いたまま、担架に乗せて医務室へと運び込み、ベッドに移すと同時に、


「強心剤投与! 蘇生術式!」


オペが始められる。なお、ここで投与される<強心剤>は、一般で使われる、


<弱った心臓に喝を入れる薬剤>


のことではなく、医療用ナノマシンが添加された、


<停止した心筋を強制的に再度動かす劇薬>


だそうだ。


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