シモーヌ編 ロボットの役目
新暦〇〇三六年四月五日
そうやって俺達は<楽しい時間>を過ごせているが、コーネリアス号で一人暮らしているシオは、ただ資料のチェックを忙しそうに行っているだけだった。
最初の三日ほどはひとしきり落ち込んだ上で、
「よし!」
と気持ちを切り替えて資料に向かっていたが、今はある程度は割り切れてきてるらしい。と言うか、資料のチェックに集中することで気を紛らわせているんだろうな。
もちろん、研究者としての好奇心もあってのことだろうが。そしてその<研究者としての好奇心>が、今の彼女を支えてるんだってことも事実だろう。
レックスとも
いずれにせよ、そんな今の自分の状況を受け止めるだけでも大変なことだというのは、シモーヌが実際に経験してきたことだからよく分かる。
当のシモーヌも、
「こればっかりは時間を掛けて自分の中に落とし込んでいくしかないんだよね。うん……」
と口にするしかできない。<元同一人物>とは言っても、こうして別の体を得てしまった限りは、感覚を完全に共有することはできないんだ。ましてや三十年近い時間差もあるわけで。
これからもこういうことは何度もあるだろう。その度に同じような手間を掛けることになるのを面倒がる人間もいるだろうが、当人にとっては常に<初めての経験>なんだよ。『同じような事例を何度も見てきた』というのはあくまでこっちの事情でしかない。
だから俺は、何度でもこれを繰り返す覚悟を持ってる。
と同時に、AIにデータを蓄積してもらってノウハウの構築もしてもらうけどな。AIはそのためにもいるんだ。
実際、コーネリアス号のAIとリンクしている
夜、彼女が一人で寝ている時に悪夢にうなされても、
「シオ様。心配ありません。私が傍についています」
とそっと声を掛けてくれる。その振る舞いは、姿こそただの機械にしか見えなくても、とても丁寧で、<思いやり>さえ再現できていると思う。
そうだ。必要とされている機能はこの時点で十全に満たしてるんじゃないかな。
だからシオも、
「ありがとう……」
あてにしてくれているようだ。
と同時に、つい、
「一人にしといて!」
などと当たってしまうこともある。
だがそれは、人間である以上は当然のことで、そういうのを受け止めるのもロボットの役目なんだよな、
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