玲編 駿

新暦〇〇三五年十月十三日




だがそんな中で、龍準りゅうじゅんがまた、めいの縄張りの奥深くへと入り込んできた。そこはほまれ達の群れの縄張りでもあったが、ほまれ達はその時点では離れたところにいて狙われることはなかった。


それよりは、


「マズい、駿しゅんの群れとぶつかるぞ……!」


そうだ。龍準りゅうじゅんの進行方向に、駿しゅんの群れがいたんだ。だからドーベルマンDK-aきゅう号機と拾弐じゅうに号機を派遣する。


とにかくそれで龍準りゅうじゅんが引き返してくれれば御の字と考えて。


なのに龍準りゅうじゅんは、木の上に跳び上がって、きゅう号機と拾弐じゅうに号機を躱してみせた。そうだ。アリスシリーズやドライツェンシリーズと違い、ドーベルマンDK-aとドーベルマンMPMは、樹上での運用を想定していない。登るだけならできなくはないものの、不安定な樹上では性能をフルに発揮できない。


まさかそれを見抜かれたとは思わないが、偶然にしても最適な対処をされてしまったわけだ。仕方なく地上から実弾を込めた自動小銃を放つが、龍準りゅうじゅんはそれを気にするでもなく恐ろしい速度で移動する。きゅう号機と拾弐じゅうに号機ではついていくのがやっとだ。むしろ、徐々に引き離されている。


そして今日は、メイフェアがメンテナンスのためにコーネリアス号に向かっていて、イレーネが代わりにほまれ達の警護をしていた。だからイレーネは向かえない。そして俺の傍にイレーネがいないとなれば、エレクシアも向かえない。


<家族>を守るためなら俺は躊躇はしなかっただろう。だが、駿しゅん達はあくまでただの<隣人>。そこまでする必要を感じているかと言えば、正直、感じていなかった。だから、光莉ひかり号に引きこもることでエレクシアを派遣するのを躊躇ってしまった。


俺のその判断の遅れが……


ごう……っ!!」


駿しゅんの群れの頭上へと現れた龍準りゅうじゅんが、ごうを捕えたんだ。かなり衰えが見えていたごうだったが、群れで誰よりも早く龍準りゅうじゅんに気付き、迎え撃とうとした。それが仇になった。


「ギイッッ!!」


自身のパートナーが襲われたことに気付いた駿しゅんが、猛然と突進する。しかし、龍準りゅうじゅんは、並のボクサー竜ボクサーよりも体の大きいごうを鎌でがっちりと捕えたまま、樹上へと跳び上がった。これでもう駿しゅんには手も足も出ない。


はずだったが、


「ガアアッッ!!」


凄まじい怒りの形相(に見えた顔)でなんと地面を蹴り、木の幹を何度も蹴って、龍準りゅうじゅんに追いすがってみせた。


「!?」


龍準りゅうじゅんも、ボクサー竜ボクサーの生態はよく知っているだろう。だから木の上に位置取れば本来は追ってこれないことを知っているはずだった。なのに駿しゅんは、その<常識>を覆してみせたんだ。


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