玲編 合理的な理由

新暦〇〇三五年十月六日




命ってヤツは、奇跡のようなバランスの上に成り立っている。


それは事実だと思う。れんが生きて生まれてこれなかったのも、楼羅ろうらが、特に何か問題があったわけでもなさそうなのに急に亡くなってしまったのも、結局はそれだろう。


『奇跡のようなバランスで成り立っていたものが、そのバランスを失った』


ということだと思う。だから俺は子供達を守るために手を尽くす。<過干渉>は避けようと思うが、<過保護>と言われようがどうだろうが、責任も負わない赤の他人の言うことなど耳は貸さない。


そしてそれはもう、ひかりも受け継いでくれている。めいに絵本を読み聞かせつつ、れいの様子もしっかりと確認してるんだ。


相変わらずれいが素っ裸なのはあれだが、彼女にとってはむしろそれが普通なので、ここで無理に服を着せようとすれば逆にストレスになるだろう。本人が素っ裸でいることを<普通>だと感じているなら、余計な干渉はしないでおこうと思うし、ひかりはそれこそそうとしか思ってない。


ひかり自身、そこそこ大きくなるまで服を着るのを嫌がってたしな。しかも服を着るようになったのだって、俺がそうするように仕向けたわけじゃなく、


『密林の中で過ごすには、素っ裸じゃ生傷が絶えなくて鬱陶しい』


という、あくまで合理的な理由があってのことだし、感覚として分かるんだろう。


『服なんか着なくていいなら着たくない』


てのが。


ひかりがそう考えるなら、俺はそれでいいよ。ただの地球人でしかない俺には、<朋群ほうむ人の感覚>は掴みきれないからな。


その上で、エレクシア達が常にバイタルサインを傍受してくれているから、何か異変があればすぐに分かる。


これは、めいについてもだ。だからこそ、彼女がみるみる衰えてきているのが分かってしまう。


<命を維持するバランス>


が保てなくなりつつあるのが分かってしまう。けれどここで無理に延命しようとすれば、十分な医療体制がない現状では、たぶん、大きなしわ寄せがどこかに来るだろう。かつての地球でも、


『ただただ死なせない』


ことが目的になってしまって、回復の見込みもない延命を行うだけになってしまっていた時期があったそうじゃないか。


正直、


『たとえどんな姿になっても生きていてほしい』


と考えてしまう気持ちも、理解できなくはない。俺だってそう思ってしまう。ただ同時に、ひそかが認知症を発症するまで生きながらえさせたことが果たして正しかったのかどうか、今でも分からないんだ。


生きていてほしかったし、ひそか自身もあんな姿になってでも生きようとしていたんだろうけどな……


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