玲編 限界

猪竜シシの背に飛び乗り首に腕を絡ませ締め上げようとする素戔嗚すさのおだが、この猪竜シシの巨体にはしがみついているだけで精一杯で、うまく力が入らないようだ。これまた体格差が猪竜シシにとって優位に働いているな。


それでも素戔嗚すさのおの攻撃も、大したもんだ。並みの猪竜シシなら最初の一撃でほぼ決着もついていただろう。単純に相手が悪かった。


そんな素戔嗚すさのおを振り落とそうと、猪竜シシは、体を激しく回転させたり、飛び跳ねたり、ブルンブルンと大きく体を振ったりもした。


素戔嗚すさのおの方も、大してダメージも与えられないのにこうしていても仕方ないと悟ったか、跳んで離れて、間合いを取った。


瞬間、猪竜シシ素戔嗚すさのお目掛けて突進する。まったく、タフな奴だ。


すると素戔嗚すさのおは再び目を狙って攻撃を繰り出す。何度も、何度も。


そうしているうちに、猪竜シシの目の周りが腫れ始めた。さすがにこうしつこく攻撃を当てられると、小さなダメージが蓄積されてきたか。明らかに瞼が塞がってきて、視界が悪そうだ。


このまま攻撃を続けられればもしかするともしかしたかもしれないが、しかし、『攻撃を続ける』ということ自体が生半可なことじゃなかった。相手の攻撃を躱しつつ自身の攻撃だけを当てるというのは、傍から見ているほど楽なことじゃない。気力もスタミナも、激しく消耗するんだ。


猪竜シシの攻撃も正確さを失いつつあるものの、素戔嗚すさのおの動きも明らかに鈍ってきていた。スタミナが尽きてきているんだろう。たぶん、普通のレオンならとっくに音を上げているところをここまで持ち堪えたんだからとんでもないことではあるものの、やっぱり限界はある。


と、その時、素戔嗚すさのおの動きが止まった。ほんのわずかな時間ではあったが、足に力が十分に入らなかったようだ。猪竜シシの攻撃を躱そうと踏ん張ったのが踏ん張れなかったらしい。


致命的な失態だった。


素戔嗚すさのおの表情に、悔しさが見える。自身の力が及ばずにここで終わることを悔やんでいるんだろう。


だが、俺としては、仲間をそんな形で失わせるつもりはないな。当然、久利生くりうもそんなつもりはない。そんな俺達の意向を受けて、グレイは動いた。と言うか、すでに動いていた。状況を分析し解析し、素戔嗚すさのおの危機を予測していたからだ。


素戔嗚すさのおの全力での蹴りでもぐらつかせるのがやっとだった巨大猪竜シシの体が、それこそ爆発したかのように弾き飛ばされ地面を転がった。


グレイの<蹴り>が横腹にモロに入ったんだ。容赦のない一撃だった。ただし、それくらいでないとこの時の猪竜シシの突進は止められなかったけどな。


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