灯編 ナイスファイト

ビアンカがケイン達を気にしてることについて、未来みらいは少しヤキモチを妬いているようだった。だがあかりはそれに対して、


『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい!』


とは言わない。ヤキモチの矛先をケイン達や黎明れいあに向けることは許さないが。だからといってただ我慢を強いるわけでもない。


地球人の大人だって、一方的に我慢させられることを嫌ってたじゃないか。


『言いたいことも言えない世の中なんておかしい!』


とか言い訳して、自分とは何の関わりもない相手を罵っていたりしたじゃないか。そういうのは本来、『礼儀に反する』行いだっただろう? なのに、自分の鬱憤をぶつけようとする。それこそ、『我慢する』ことなく、な。


自分は我慢したくないが、他者には『我慢しろ』と? 随分とムシのいい話じゃないか。


で、


『お前らは我慢してないクセにこっちには我慢させようとする! ふざけんな!!』


とキレた奴がトラブルを起こしたりもする。


散々そういうことを繰り返してきたのに、まだ『自分は我慢したくないが他者には我慢させようとする』というのを続けるのか?


なんでそれで上手くいくと思えるんだ?


とは言え、鬱憤をぶつける相手や手段は選ばなくちゃいけない。あかりは、それを未来みらいに教えてくれてるんだよ。


今の時点では未来みらいよりも強い自分に対して、ボクシングのトレーニングの<ミット打ち>的な形で、ヤキモチでむしゃくしゃしてる自分の鬱憤を叩き付ける。そんな未来みらいを、


『メンドクサイ。そんなことしてられない』


なんて甘えたことは言わずに、あかりは受け止めてくれる。


ビシッ!! バシッ!!


と、とても幼児が出す音とは思えない衝撃音をさせながら、未来みらいあかりの掌を拳で打つ。


「まだまだ! そんなものか!? ドンドン来い!」


あかりはそうハッパを掛けて、未来みらいを鼓舞した。すると未来みらいも、さらに回転を上げる。地球人のプロボクサー顔負けの腰の入った体重の乗った、それこそ一発一発が一撃必殺の威力を持ったパンチを、無数に繰り出してくる。


「うおおおおおおおっ!!」


いつしか雄叫びまで上げながら、未来みらいは今の自分のすべてをあかりの掌に叩きつけた。


そうしてたっぷり十分はフル回転でパンチを繰り出し続け、汗だくになって息を切らして、彼はその場に腰を落とした。そんな彼に対して、あかりは、


「よし! 未来みらい! ナイスファイト!!」


ニヤリと笑みを浮かべつつ右手の親指を立てて称えた。すると未来みらいも、ニッと笑って体を起こして、ピューっと川に向かって走り、そのまま飛び込んだ。


それを見届けて、あかりは、


「痛てて……未来みらい、強くなったなあ……」


赤くなった自分の両手を振りながら嬉しそうに笑ったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る