蛮編 ヒト蛇

毒ヘビの毒からも生還したばんは、その後も、アクシーズと戦って頬に大きな傷が残ったりもしつつ、生き延びた。毒ヘビに噛まれた箇所は一部が壊死して削げ落ちらことでこれまた痛々しい傷になっている。


こうしてばんの全身はいつしか傷まみれになっていた。まあこれもヒト蜘蛛アラクネとしては普通の姿だ。ここまで指とかの欠損がなかったことがむしろ珍しいだろう。他の個体には指どころから手足(触角)が欠損しているもの珍しくないしな。


まあそんな風に、殺伐とはしているもののヒト蜘蛛アラクネとしてはむしろ平穏と言ってもいい日々を過ごしていたばんだが、ある日、とんでもないものに遭遇することになった。


こちら側とばんがいる密林とを隔てている河ではなく、その反対側にある支流にあたる河に落雷があり、そして現れたんだ。


みずちと同種と思しきヒト蛇ラミア


が。しかもそのヒト蛇ラミア、今度はビアンカの姿をしていた。とは言え、ルコアのようなサーペンティアンではなく、明らかに<人間としての意識>を持たない、ヒト蛇ラミアだった。さすがにそれが出現した時にはドーベルマンMPM四十二号機から通知を受けて、対処することになった。できれば殺さずに捕獲し、遠く離れた場所に移送したかったからだ。幸い、アリアンも運用できるようになったしな。


でも、何ともタイミング悪く、この時は、夷嶽いがくをアリアンで台地の麓、夷嶽いがくに近い種がいる場所へ移送する作戦を実行中で、エレクシアもそちらに派遣していたんだ。アリアンとエレクシアを現場に派遣するには三時間はかかる状況で、仕方なく密林の調査に派遣していたドーベルマンMPM三機を現場に向かわせて釘付けにし、時間を稼ぐこととした。


たまたま近くにいた一機を先行させて、他のドーベルマンMPM二機の到着を待つ。数機のドローンも随伴させて。攪乱することで戦力差を埋めるためだ。


そのドーベルマンMPMをヒト蛇ラミアにわざと発見させて、直後、逃げさせる。みずちと同等の能力であるなら、真っ向やり合うとパワー負けするのは分かっていたからだ。するとヒト蛇ラミアも、それを追ってきてくれた。激しい憎悪を隠すこともなく。


やはりこいつも、夷嶽いがくと同類だ。牙斬がざんよりは強力でもなさそうなものの、人間や人間の存在を窺わせるものに対しては異常な攻撃性を見せる。人間性がまったく見えない。ビアンカがアラニーズとして現れた時も最初は凶暴そうな印象だったが、それでも戸惑った様子も見えていて、少なからず<人間性>を感じさせた。でもこの、


<ビアンカの姿を持ったヒト蛇ラミア


には、まったくそれがなかったんだ。


それもあってルコアに知らせるのは気が引けたので、敢えてこちらだけで対処させてもらう。


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