ホビットMk-Ⅰ編 提案

かつてメイフェアが、


<シモーヌの姿をしたグンタイ竜グンタイの女王>


の対処を巡って俺達と対立した時、彼女を壊さないようにエレクシアに命令したことがある。手足を破壊して動けなくするだけで簡単に制圧できたところを、敢えてそうしなかったんだ。


それは、メイフェアが、


<試験的に感情の再現を試みられた機体>


だったからというのも大きく影響していた。二千年の孤独に耐えてようやく再び人間に仕えられるようになった彼女を、ただの<置物>にしたくなかったんだ。当時は<義手・義足>という形で補うという発想もなかったしな。


加えて俺自身、


<感情を持ったメイトギア>


というものに触れたのが初めてで、彼女に対して強く感情移入してしまったというのもあると思う。だが、長く付き合う中で、やっぱり彼女も<ロボット>なんだという実感を改めて得て、冷静に合理的に考えることが少しはできるようになった。


彼女達はロボットだ。機械であり人間の<道具>なんだ。道具として自身が人間の役に立つことこそが彼女達の存在意義であり、メイトギアレベルのロボットの再現が不可能な今のここでは、たとえどんな姿になっても使える限りは使うのがむしろ必要なんだって思えるようになったんだよ。


だからアリアン2CVドゥセボーも、メインフレームだけになったとしても役立ってもらうぞ。


「なるほど、そのようなことが。では私達はまた、シモーヌやビアンカや久利生くりうの力になることができるということですね?」


画面上の<アバター>としてのアリアン2CVドゥセボーに、セシリアがこれまでの記録をリンクによって送信、事情を説明した。人間なら延々言葉で説明していかなければいけないところが一分足らずで説明できるんだから、こういう部分は羨ましくもある。


人間らしい情を交えたコミュニケーションも大事だが、ロボットはそういうのを必要としていないしな。


そんなこんなでアリアン2CVドゥセボーも現状を理解してくれて、しかも、


「フローティングヘリのAIが起動しないということであれば、私を接続してはどうでしょう?」


と提案してきた。セシリアの<説明>の中には、コーネリアス号の現状についての詳細も含まれていたんだ。


「え? そんなことができるのか!?」


俺は思わず問い返してしまったが、久利生くりうは、


「確かに。我々の規格のメイトギアであれば不可能ではないはずだ。特にアリアン2CVドゥセボーは、様々な機器との連携を図ることに特化した機種の一体だったし、メイフェアやイレーネよりは容易かもしれない」


「マジか……」


モニュメント的な形で残すべきかそれとも資材化して役立てるべきか散々頭を悩ませてきた<フローティングヘリの使い道>に突然の光明が差して、俺は呆気にとられるしかできなかったのだった。


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