ホビットMk-Ⅰ編 コロン

新暦〇〇三四年四月二十三日




まあ、そういう諸々についても、最初から分かっていたことなんだ。本来は。なのに俺は、


『何とかなるだろ』


と甘い見通しで、ドーベルマンDK-a、アリスシリーズ、ドライツェンシリーズ、ドーベルマンMPM、フライトユニット、ワイバーンシリーズと開発を続けてきたわけだ。


こんな俺が偉そうになんてできるわけないだろ? 偉そうに、


『お前達は俺の言うことに従ってればいいんだ!!』


とかやってたら、今頃それこそ袋叩きだったと思う。凡夫が身の程をわきまえつつ何とかしようと足掻いてるから、シモーヌもビアンカも久利生くりうもあたたかく見守ってくれてただけだ。


<唯一の地球人>


だし。


とは言え、落ち込んでたって問題は解決しない。必要な素材が湧いて出てくるわけでも、超常現象が起こってロボットが勝手に進化してくれるわけでもない。


一つずつ目の前の課題を克服しながら先に進むしかないんだ。


「幸い、別に追い詰められてるわけでもないしね」


シモーヌがそう言って俺を労わってくれる。切羽詰まった状態まで問題を放置してどうにもならなくなってからあたふたしてたんじゃ、さすがに呆れられるだろうな。


それはなるべく避けたい。


人間ってのは、傍から見てると、


『最初から分かってたことじゃねーか!』


って問題に躓くってことがよくある生き物だ。歴史上でも、『なんでもっと早くから手を打っておかない!?』と、第三者視点で見たら思わずにいられないことの繰り返しだったはずだ。<岡目八目>って言葉があるように、<神の視点>って言葉があるように、当事者じゃないからこそ見えるものもあるのも事実なんだ。


だから、あらたうららのことも、俺は責めないんだよ。俺にその資格はないからな。


ともあれ、改良のためのデータ収集を目的に、ホビットMk-Ⅰの運用を続ける。


取り敢えず、コーネリアス号内の清掃を行わせるんだが、何にもないところで足をもつれさせて転ぶ。とにかく転ぶ。五分に一回は転ぶ。


ただ、人間が失神して倒れるような危険なそれじゃなくて、全体のシルエットを見るとおおむね球状になるようにデザインされていることで『転がる』形になり、衝撃を逃がせていた。これは、子供用の玩具おもちゃのロボットを作るノウハウを応用したものだそうだ。さすがエレクシア。


それもあって、転ぶと言うか転がる姿もどこか愛らしい。掃除用の柄の長いワイパーで壁を掃除しているだけでコロン。次の場所に移動しようとするだけでコロン。そんな姿がタブレットに映し出されているのを見て、まどかが、


「かわいい~♡」


と声を上げたのだった。


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