新編 個人の問題

んでもって、なんだかんだと徹底的に検査してデータを照合した結論から言うと。


「採取された卵子を解析した結果、九九.七二パーセント、地球人としての遺伝子で構成されてた。これは、連是れんぜと、ひそかじんふくよう達との違いよりもむしろ近いくらい。ビアンカの他の部位から採取された遺伝子だと八〇パーセント台なのに、卵子、と言うか、卵巣そのものの細胞が、他の部分とは違った遺伝子を持ってるってことだと思う。実はこれは、人間(地球人)でも確認されたことがある事例なの。他の部位の遺伝子と、卵巣部分の遺伝子が違ってる事例。


もっとも、それについては、元々二卵性双生児として生まれるはずだった子供が、細胞分裂の段階でもう一方を取り込んでしまったという形で起こったことだと言われてるから、ビアンカの場合とは違うかもだけど、考えてみたらアラニーズそのものはまったく形質の違う二種類の動物のキメラなわけで、むしろ十分にあり得ることかもしれない」


シモーヌが告げる。


「それはつまり……?」


恐る恐る問い掛けるビアンカに、


久利生くりうとの間で妊娠に至る可能性が否定できないってこと」


きっぱりと断言するシモーヌに、


「マジか……」


俺は呟いてしまったが、


「やったじゃん! ビアンカ! 久利生くりうの赤ちゃん産めるかもよ!?」


あかりが、飛び上がるようにして喜ぶ。しかも、


「そうだよね…? そうだよね……!?」


ビアンカまで実感が湧き上がってきたのかじわじわと表情がほころんでいく。


そんな彼女達をタブレットの画面越しに見守りながら、ひかりも微笑んでくれてた。


すると、まどかが、


「ビアンカ、赤ちゃん生まれるの?」


と問い掛けてくる。それに対してひかりは、


「それはまだだけど、赤ちゃんができるかもしれないのが分かったんだよ」


丁寧に説明してくれる。それでやっと理解したまどかは、


「ビアンカ、よかったね♡」


タブレット越しにビアンカに声を掛けてくれた。


「ありがとう、まどか……!」


この時にはそれこそ満面の笑顔になってたビアンカは、すごく幸せそうだった。


もちろん、だからって『子供を生むことこそが幸せだ』などと言うつもりはまったくない。あくまでも、


『愛する人の子供を生める可能性が出てきたことでビアンカは幸せを感じてる』


ってだけの話だ。どこまでもビアンカ個人の話なんだよ。


『何を幸せと感じるかは、個人の問題』


ってことだ。


他人が幸せそうにしてるからってそれにケチを付けてて自分が幸せになれるわけじゃない。それをわきまえない限り、誰も幸せを願っちゃくれないさ。


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