新編 私の娘みたいなもの

そもそも俺は、<優れた統治者>なんかじゃない。ただ単に、エレクシアやセシリアやメイフェアやイレーネや光莉ひかり号やコーネリアス号から、


<唯一の地球人>


として認識されててそれが<絶対的な力>になってるってだけだ。俺自身の資質が優れてるとかじゃないんだよ。なのにそれを笠に着て君臨しようとしたら、それこそ馬鹿みたいじゃないか。


<虎の威を借る狐>


以外の何だって言うんだ?


だとすればなおのこと、凡人としてわきまえてないといけないよな。


家族からの信頼さえ得られないで、凡人がまともに家族をまとめていけるわけないだろ。


「ありがとうな、ひかり


うららを気遣ってくれた彼女を俺は労わる。


「ううん。これは私の役目だから。うららも私の娘みたいなものだし」


そう言ってくれる彼女が本当に頼もしい。


そんなひかりに育てられてるから、ひなたうららを労われる子になってるんだろうな。


ところで、ひかりは第二子を妊娠してるというのに屋根に跳び上がるようなことをしてて大丈夫なのか?という声もあるかもしれないが、その辺はまあ、彼女もパパニアンの血を受け継いでるしな。このくらいなら問題ないんだろう。


野生に生きるパパニアンには地球人のような安全は確保されていないし、そもそも樹上で暮らしている以上はいつだってあの程度の挙動は普通だからな。


もう少し腹が大きくなってきたりしたら、気を付けなきゃいけないにしても。


で、ちょうどこの頃、ビアンカの<月経>が始まるという驚天動地の事態が。


昨日、ビアンカが改まった様子で、


「<月経>が、始まりました……」


朝食の場で彼女がいきなりそう告げたんだ。でも、まさかの申告に、


「え…?」


「は…?」


「なに…?」


「へ…?」


「え、え……?」


久利生くりうも俺もシモーヌもあかりもルコアも、唖然とする。


「月経…って、アラニーズとしてはあなたはもう……」


シモーヌが<専門家>としてそう口にする。なにしろビアンカは、アラニーズとしてはとっくに<繁殖可能な状態>になっていたんだからな。しかし、


「だから、そっちじゃなくて、人間としての……」


そこまで言われて、ようやく全員が察して、


「ええ~~~っ!?」


声を揃えて。


「なに? どうしたの?」


俺とシモーヌが声を上げたのが、元<ビアンカの家>だった新居にまで届いたらしくて、ひかりがタブレット越しに問い掛けてきた。画面の隅で小さな枠に収まった彼女に、


「いや、ビアンカに月経が始まったって」


俺が告げると、


「月経…? 彼女はもう……」


と言ったところでピンと来たのか、


「まさか、人間としてのそれ?」


訊き直してきたのだった。


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