新編 野生寄りのメンタリティ

新暦〇〇三四年三月一日




しかし、『家族を見捨てるつもりはない』と言っても、過剰に干渉するのも違うからな。


『失恋とか、美味いものを腹いっぱい食って寝たら忘れる!!』


的な戯言を口にするつもりもないんだ。そんなことで忘れられるなら苦労もしないだろう。


まあ、中にはそれで忘れられるのもいるかもしれないが。


ただ、うららの場合はそうじゃないようだ。ある程度は食べるようになったものの、以前ほどの食欲はない。心なしか、瘦せたような気もする。


そんなうららに、ひなたは付きっきりだった。


「ねえ、うらら。元気出しなよ」


とは言うものの、うららが応えないと、それ以上、しつこくはしない。それよりはまどかの方が、


うらら! いつまでも落ち込んでたってしょうがないよ!」


ちょっと強い言い方をする感じか。お転婆なまどからしい姿だが、ひなたのそれは、どっちかと言えば俺に近いのかもしれない。俺の距離感を受け継いでると言うか。


どちらが正解かは、正直、分からない。とにかくうららの様子を見守るしかない。


すると、今度はひかりが、とん、と地面を蹴って跳び上がり屋根を掴んで、ぐい!と自分の体を軽々と持ち上げた。まるで、フィクションに出てくる<忍者>のような動き。やっぱり、ひそかの娘だけはある。


「……」


黙って屋根の上に蹲ってるうららを挟んで、ひなたとは逆側に腰掛けた。そして、穏やかに話し掛ける。


「う、うあう、あ、うああ」


パパニアンの<言葉>だ。その上で、


「辛いよね。大好きな人に振り向いてもらえないというのは、きっとすごく辛いことだと思う。私はパパと結ばれたけど、大好きな人と別れないといけないとなったらすごく辛いことは分かる……家族と別れるのも辛い……」


静かに語り出した。


「私もね、最近、大好きなお姉ちゃんと別れたんだ。もう会えない……そう思うとさ、こう、たまらない気分になるんだよ。でもさ、パパや、まどかや、ひなたや、うららのことを思うとさ。頑張らなくちゃって思えるんだ……」


『大好きなお姉ちゃんと別れたんだ』


その言葉に、俺もハッとなる。


きたるのことか……』


そうだ。先日、あらたがここを去る少し前、きたるがその人生を終えた……


ひかりは、きたるのことを実の姉のように慕ってた。他の実の兄弟姉妹よりも、きたると一緒にいることが多かった。血の繋がった兄弟姉妹の中では、一番の<姉>だったから、甘えられる相手が欲しかったのかもしれない。


そんなきたる久利生くりうを見染てここを去っても、ひかりはとくに気にしてる様子もなかった。そしてきたるが突然この世を去っても、悲しんでたのは確かだが、涙を流して落ち込んでって感じじゃなかったから、野生寄りのメンタリティのおかげで割り切れてるのかと思ってたんだが……


でも、本当はそうでもなかったのかもしれないな。表には出てなかっただけで……


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