新編 ボスの役目

俺がいちいち面倒臭い手間を掛けようとするのは、結局、それが一番の近道だからだ。自分が幸せでいるためのな。


『気に入らない相手は罵ればいい』


『自分にとって都合の悪い相手、不快な相手は殺せばいい』


そんなことをやってて自分だけが幸せになれると考えられる思考回路が、今の俺には理解できない。もっとも、自分が幸せじゃないから、


『お前らも不幸になれ!!』


と言いたいのかもしれないけどな。だが、そんな身勝手な理由で自分の家族に危害を加えられて、『はいそうですか』と黙っていられるわけがないだろう。


『自分は不幸だから他の奴らも不幸にしたい』


とホザくなら、


『一人で死ね!!』


って話になると思わないか?


俺は、自分の家族をそんな風に考える奴にしたいとは思わないぞ。思わないから、


『幸せになってほしい』


と思えるんだし、そのための努力もするし手間も掛ける。俺のやってるすべては、結局、


『俺自身が幸せになるため』


にやってることだ。他でもない俺自身のためだから、努力もできるし手間も掛けられるってことだ。


『エゴだ!』


と言われればその通りだよ。だが、エゴを持つことそのものが<命>というものでもある。何しろ、自分の命を繋ぐためには他の命を奪わなきゃいけないんだからな。それが<エゴ>でないならなんなんだ?


だが、だからと言って自身のエゴばかりを肥大化させてたら、他者にとっての大きな<リスク>にもなるからな。そうならないように折り合いをつけるんだ。だから『生きる』というのは、


『自分と他者の<エゴ>についてどこで折り合いをつけるか探り続ける』


ことでもある。


うららあらたを求める気持ちも結局は<エゴ>だし、


あらたうららにそれだけ想いを寄せられながら受け入れないのも結局は<エゴ>だ。


その両者の<エゴ>に折り合いをつけるのが、今は求められているんだよ。


これについて、うららあらたの間だけで解決できるならそれに越したことはないが、現実問題として二人にそれができる能力がないなら、俺達が間に入るしかない。その手間を惜しんで解決を任せきりにして取り返しのつかないことになったら、俺自身が痛い思いをすることにもなる。


俺としては、そんなのはお断りだ。だから努力もするし手間も掛ける。


あらたうららの前から姿を消すつもりなのは決定事項であるなら、うららのフォローが俺達の役目だ。


余所の家庭で起こってることなら俺だってそこまではしない。それはその家庭の人間の問題だからな。しかし、この集落内で起こることについては、家族の中で起こることについては、俺が責任を負うんだよ。


それがボスの役目なんだ。


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