ビアンカ編 歩く椅子

新暦〇〇三四年九月十五日




そうしてビアンカの妊娠は順調に推移し、胎児も見る見る大きくなっていった。悪阻の時期が過ぎるとしばらく楽になったが、さらに進むと今度は腹が大きくなってくる。


すると、思わぬ、


<アラニーズならではの弊害>


が。


これまでにも何度も説明してきたが、アラニーズの体は、人間(地球人)そっくりの部分は<頭部>であり、人間(地球人)の尾てい骨に当る部分からさらに<頚椎>に相当する骨で<アラニーズとしての胸部>と繋がっているんだが、妊娠に伴って人間(地球人)そっくりの部分の腹部が大きく重くなってくると、<アラニーズとしての頚椎>の部分に負担が掛かり、


「痛い……です……」


と、かつては現役の軍人であり簡単には弱音も吐かなかったビアンカでさえ、苦痛を訴えてきた。


「まあ、無理もないかもしれないけど、思った以上に影響があったみたいね」


データを見ながらシモーヌが呟く。


「でも、このまま負担が掛かると<頚椎ヘルニア>的な症状が出るかもしれない。だからそれを和らげる手立てが必要ね」


とのことだったので、すぐに対応した。


ドーベルマンMPMをベースに、


『ビアンカの<人間(地球人)そっくりの部分>が腰掛けるような形で支え、<アラニーズとしての頚椎部分>の負担を下げる』


ことを目的とした、


<歩く椅子>


を作ったんだ。


ここまでのドーベルマンシリーズやアリスシリーズやドライツェンシリーズで得たノウハウを基に、ビアンカの動きに合わせて絶妙に動いてくれる椅子だ。


「いいです。すごく楽になりました!」


大きなお腹を抱えたビアンカが、笑顔でそう言ってくれる。彼女が歩いても<歩く椅子>はその動きを完璧にトレースして、本当に体の一部のように違和感なく動いてくれた。


ちなみにその<歩く椅子>は、椅子としてだけじゃなく、ビアンカの<人間(地球人)そっくりの部分>の脚で歩く動作をした時には<竹馬>のような形で支えてもくれる優れものだぞ。


「まさかこんな形で役に立つとは思わなかったが、技術ってヤツは蓄積しておくものだなあ……」


つくづく感心させられる。


「まったくだね」


久利生くりうも感心しきりだ。さらに、


「僕もビアンカを支えてあげたいとは思ってるけど、こればかりはね」


との彼の言葉に、あかりも、


「いやはや、その通りですな」


うんうんと頷く。


「あはは……」


ルコアは何と言っていいのか分からずに苦笑い。


「私の仲間が役立ってくれてるのでしたら、誇りに感じます」


とは、モニカの弁。そして、


「元気な赤ちゃんが生まれることをお祈り申し上げます」


ハートマンも、ひどく人間臭いことを言ったのだった。


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