ビアンカ編 予防的な駆除

なんてことを俺が考えている間にもビアンカ達が畑の手入れをしていると、


オオカミ竜オオカミが接近しています。通常の哨戒作業と思われます」


ハートマンがそう報告してきた。


見ると、オオカミ竜オオカミの小集団が、百メートルほど離れたところに確認できる。<ビクキアテグ村のお隣さん>だ。ビアンカ達の様子を探り、自分達にとって危険がないかどうかを測っているんだろう。


もちろん、ビアンカ達に彼らをどうこうしようというつもりはない。確かにオオカミ竜オオカミは危険な存在ではあるものの、ドーベルマンMPM、ハートマン、グレイという<守り>に加え、ビアンカ、あかり久利生くりう未来みらいきたる、そして今ではおそらくルコアでさえ、オオカミ竜オオカミ単体なら退けることができるだろう。<致命的な脅威>とはなりえないんだ。


人間(地球人)には、危険な獣などに対して、


『被害が出る前に駆除するべきだ!』


『被害が出てからじゃ遅い!』


などと言って予防的に駆除しようと主張する者がいるが、それによってどれだけの多くの種が永久に失われたのか、考えたことがあるんだろうか?


人間(地球人)は、<予防的な駆除>を行うには、強すぎるんだよ。その種そのものを根絶やしにできてしまう程度には。


だから、人間(地球人)の社会では、原則、<予防的な駆除>は禁止されている。


『被害が出たらどうするんだ!?』


とか言うのもいるだろうが、その一方で、


『殺していいのは、<殺される覚悟>のある者だけだ』


なんてことも言ったりするよな? おかしいじゃないか。


『被害が出る前に駆除する』


ていうのは、


『<殺される覚悟>なんて持っていない』


からこそすることじゃないのか? <生存競争>というのは、自分にとって都合の悪い存在を一方的に排除することを指すんじゃないぞ? 自分の方が負ける可能性もあればこその<競争>だ。自分が負ける可能性もないのに排除しようなんてのは、ただの<虐殺>に過ぎない。


そして何より、根本的な問題がある。それは、


『人間(地球人)にとって最も危険な<敵>は、人間(地球人)自身である』


ということだ。


『危険だから予防的に駆除する』


などと言い出したら、一番駆除しなければいけないのは他でもない<人間(地球人)>ということになるんじゃないのか?


そんな考え方を容認しないために、<予防的な駆除>は認められないとのことだ。実際に、そう考えて人間の排除を目論んだテロリストもいた、と言うか、『いる』らしいからな。


とは言え、実際に被害が出るのは確かに辛い。だとすれば、<予防的な駆除>以外の方法で、


『襲われないように対処する』


のが必要だろう。


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