ビアンカ編 メリハリ

朝食を終えると、後片付けはモニカとテレジアに任せて今度はビアンカも加わって、トレーニングを始めた。


が、まずは実際に体を動かす前に、装備品をチェックし、詳細に確認していく。その表情は真剣そのものだ。


当然か。自分達の命を守るものであると同時に、扱いを誤れば逆に命を奪うことさえあるわけで。


特に、銃器、刃物等の<武器>類については、鬼気迫る程の集中ぶりだ。未来みらいが子供らしい好奇心を見せて近付くものの、いつもの愛嬌のある笑みをたたえた彼女の姿はどこにもなく、それこそ鬼のようなかおで、未来みらいを睨み付ける。


実はこれも、未来みらいに、


『やっていいことと、よくないこと』


の区別を付けてもらうために必要なことだった。普段は本当に優しくて穏やかな久利生くりうやビアンカが、


未来みらいがやっちゃいけないことをしようとした』


時には、非常に険しい表情を見せることで、


『自分は、この人達にこんな表情をさせてしまうほどにヤバいことをしようとしたのか』


と自覚させるためにな。


これは、普段は本当に柔和な表情をしてるからこそ効果を発揮する。少々の<やんちゃ>程度では怒ったりしない久利生くりうやビアンカがそんな表情をしてしまうというのは、<とてつもなくヤバいこと>なんだ。と、感覚的に伝わるということだ。


これが、普段から些細なことでキレて怒鳴っていたりすると子供の方もそれに慣れてしまって、<大変なこと>と認識できなくなるんだよ。


だから、<本当にやっちゃいけないこと>をやろうとした時にしかこの表情は見せない。いわば、


<伝家の宝刀>


だな。


安易に見せてちゃ、<威厳>もへったくれもなくなる。普段とのギャップが効果を高めるんだ。


俺も、心掛けてたものだよ。


ほまれそう達にも、思った以上に効果があった。とは言え、それを使ったのはほんの数回だったけどな。


あいつらの場合も、<やんちゃ>そのものは生きていくのに必要な資質だから、家を壊そうが兄弟姉妹でふざけてて怪我をしようが、それでは極力怒らないようにしてたものの(まあそれでも、つい、ということはありつつ)、たまに現れる<毒を持った生き物>とかの、


<シャレにならないヤバい存在>


とかに手を出そうとしたりした時には、厳しい口調で名前を呼んで、真剣な表情で真っ直ぐ見詰めた。


するとそれだけでも結構、察してくれたよ。


やっぱりこういうのはメリハリが大事なんだと実感する。


普段から怒鳴られたりしててそれに慣れてしまうのがマズいんだろうな。


ただの<悪ふざけ>で済むことと、<シャレにならないこと>の線引きが曖昧になってしまうんだって気がするし。


だからこそ俺は、普段は怒鳴ったりとかしないようにしてたんだ。


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