こうして始まった＜牙斬（がざん）移送作戦＞ではあるものの、それ自体は本当に呆気ないくらいに順調に進んだ。

エレクシア用の予備バッテリーを積んでいることで航続距離の心配も要らないから敢えて高度は取らず、かつ、ここまで調査のために派遣していたいくつもの母艦ドローンから送られてくるデータを基に気象も予測。大気の状態が安定しているルートを選んで＜万が一＞がないように敢えて最短のルートは進まなかった。

実際、予定していたルートでは雷雨があったりして、そのリスクを回避できたことは幸いだった。

牙斬（がざん）の容態も安定していたのは、これは牙斬（がざん）自身の生命力のなせる業だったかもしれない。

その間にルコアの手術も終わり、彼女の容態も安定していた。結果として、牙斬（がざん）も俺達も生き延びた。俺達の戦いに巻き込まれた動物達の犠牲はありつつも。

だが、牙斬（がざん）を押さえて夜になると、犠牲になったはずのオオカミ竜（オオカミ）の群れが戻ってきたんだ。数は減っていたものの。

どうやら、群れの一部が、縄張りを広げるための斥候に出ていたらしい。ボスと、有力な若いオオカミ竜（オオカミ）の小集団だった。

結果として群れの中枢だったオオカミ竜（オオカミ）が残ったことで、またそこから数を増やしていくことはできるだろう。戻ってきた小集団には雌もいたし。

さりとて、他のオオカミ竜（オオカミ）や、インパラ竜（インパラ）や、猪竜（シシ）といった＜犠牲＞は確かにあったわけで、諸手を挙げて喜ぶ気にはなれなかったけどな。

とは言え、ビクキアテグ村としては犠牲が出なかったのは、本当にホッとした。

ビアンカは、麻酔が効いて眠っているルコアに寄り添い、久利生（くりう）は、ルコアから離れようとしない未来（みらい）を抱いて、ビアンカに寄り添う。來（きたる）は、未来（みらい）が無事だったことを確認すると池に戻って食事にしていたようだ。

その一方でハートマン達ロボットは、人間のように休むこともなく、メンテナンスを終えるとすぐに作業を開始する。破壊されたドーベルマンMPMの回収だ。修理が可能な機体はそのまま修理に回し、散らばった部品の類も可能な限り回収し、再資源化を行う。

現状では新たに手に入れることのできない素材もあるわけで、ネジ一本さえ無駄にはできない。

同様に、破壊されたドローンも、なるべく回収することになる。

なお、左前腕を破壊されたエレクシアは、テレジアを伴ってコーネリアス号に赴き、そのまま、＜義手＞の製作に取り掛かった。イレーネの義手を作ってきたノウハウが活かされることになる。

部品もイレーネ用の義手のそれを一部流用し、加えて、辛うじて破壊を免れた＜筋繊維アクチュエータ＞を再利用。一晩で仮の義手が完成。それをつけて、エレクシアが＜ワイバーン三型＞に搭乗して俺のところへ帰ってきたのだった。

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