モニカとハートマン編 無理はするな

徹底的に機能を簡略化したドーベルマンMPMと違い、敢えて機体表面に電気が流れやすい部分を設けて内部を守るようにしたドライツェンだったが、さすがに、強力な電撃が発生させる誘導電流までは完全には防ぎきれず、一瞬、機能が低下する。


すぐさま回復はできたものの、牙斬がざんが態勢を立て直すには十分すぎるほどの時間だった。本当にどこまでもとんでもない奴だ。


しかも、ハートマンの腕を捻じ切るとか、おかしいだろう。みずちと力比べをしても折れない程度の強度は与えたはずなんだ。


ただそれも、捻じ切られた瞬間のデータを解析すると、なるほどと思わされる点もあった。ドライツェンの腕は、必要とあればがっちりと固定しできるように敢えて<曲がらない方向>というものを設けてある。牙斬がざんは、<てこの原理>を利用して曲がらない方向に力を加え、間接をヘシ折ったんだよ。おそらく、戦いながらそれを見極めていたんだろう。


恐ろしく頭もいい。


そしてハートマンやグレイと間合いを取った牙斬がざんは、弾かれるように走り出した。ビクキアテグ村に向けて。


「くそっ!」


画面を見ながら俺は声を上げてしまったが、黙々と自身の役目を果たすべく走る者がいた。ビアンカだ。軍人としての気概を持つ彼女は、たとえ好ましくない状況にあろうとも、うろたえたり諦めたりはしない。ロボットのように淡々とただ淡々と自らにできることを果たそうとするだけだ。


とは言え、ハートマンとグレイ二機がかりでも倒しきれなかった牙斬がざんが相手では、ヒト蜘蛛アラクネと大きく能力が変わらないビアンカでは、武装した分だけ確かに強くなっていても、牙斬がざんには到底届かない。


それでも、彼女は怯むことなく危機に対応する。彼女に求められることであるがゆえに。


そんな彼女が随伴させているドーベルマンMPMは、複数の<箱>を装備していた。そのドーベルマンMPMを先行させ、自身は<粒の大きい散弾>を装填したショットガンを構えている。


「ビアンカ。言うまでもないとは思うが、改めて命じる。無理はするな」


久利生くりうの言葉に、


「はい、少佐!」


はっきりと応えて牙斬がざんを迎え撃つ。


後を追うハートマンやグレイと挟み撃ちにすることになるが、ここで止められなければ、いよいよ後がない。エレクシアが到着するまで、何とか時間を稼いで欲しい。


「GO!」


牙斬がざんの姿が遥か遠くに確認できた瞬間、ビアンカがドーベルマンMPMに指示を与え、


「GO!」


俺が追認する。


本当なら、この僅かなタイムラグが命取りにもなる場合もあるだろう。だからいずれは、ちゃんと<朋群ほうむ人>が直接命令できるようにしていかなくちゃな。


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