モニカとハートマン編 夷嶽

『遂に恐れていたことが現実のものになった……』


そんな風に思いつつも、同時に、


『これで……!』


とも思ってしまう。


そんな俺に久利生くりうが、


「確かに、映像で見させてもらった<がく>と同種ないし近似種の生物のようだね」


緊張感ははらみつつも冷静に話し掛けてきた。それを受けて、俺も、


「ああ、だがこれで、今まで行ってきた準備が有効かどうかが判別できると思う……」


と口にしてしまった。


そうだ。このために俺は、<ダミーの集落>を用意してきたんだ。


その中でも、<N008>は、コーネリアス号から最も遠い、直線距離にして五十キロ以上離れた場所に設けたものだった。<フライトユニット>を装備したドーベルマンMPMを派遣して作った<ダミーの集落>だ。しかし、本来なら発見したと同時に通知が届く。それこそ一秒と掛からずに。にも拘らず、通知が届いたとほぼ同時に機能停止したという。


確かにそのがくと同種(もしくは近似種)と思しき個体は、サイゾウの近似種の群れを追う形で接近したためにその中に紛れてしまったんだろう。映像にもサイゾウの群れが<ダミー集落N008>の脇を通り過ぎた直後に姿を確認。通知を発信したのが分かった。


しかし、それでもおかしい。見れば姿を確認できた時点では数十メートルは離れてるように思える。むこうがドーベルマンMPMを発見してから襲い掛かったにしても時間が短すぎる。


だが、それを詮索していても仕方ない。ドーベルマンMPMがいなくなればまた大きく移動して他のダミー集落を襲う可能性がある。


本来は、あくまで倒すことが目的じゃなく、ひきつけておくことで人間が暮らす集落に近付かせないというのが目的なんだ。これじゃひきつけておくことさえできてない。


なので、


「母艦ドローンを当該地に派遣。目標を捜索しろ。あわせてドーベルマンMPMにフライトユニットを装着して向かわせて目標を誘導。コーネリアス号の方へ近付かせるな」


まずは詮索よりも行動だ。そう指示を出し、加えて、


「これより目標を<夷嶽いがく>と呼称。対応に当たれ!」


とも。


「こんなものでどうだろう?」


軍人でもあった久利生くりうに尋ねると、彼は、


「ああ、まずはそれでいいと思う。とにかく夷嶽いがくの発見が優先されるからな。その上で、ドーベルマンMPM三十三号機が機能停止した原因を探ろう。機体の回収は可能だろうか?」


とのことだったから、


「そうだな。捜索の一環として回収させよう」


そう応えさせてもらう。


と、その時、


「映像解析出ました。ドーベルマンMPM三十三号機が機能停止した原因と思しき映像が捉えられています」


エレクシアが告げたのだった。


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