メイガス編 時間経過

例の<不定形生物の中の世界>は、こことは時間の流れが違うと推測されている。非常に高度なシミュレーションを行っているからかもしれない。


だから、シモーヌやビアンカや久利生くりうも、精々、長くても数十年程度の感覚だったらしい。


しかし実際には、二千二百年以上の時間が経っていた。


いわゆる<浦島太郎>状態だよな。


科学の世界でも<ウラシマ効果>と呼ばれるものがあるらしいが、恒星間航行技術ハイパードライブの確立によって、ほとんど気にしなくても済む程度になったそうだ。


俺も、惑星プラネットハンターとして宇宙を飛び回っていた頃に、それを強く意識したことはない。俺の感覚では数日だったのが、地上では数週間経っていたというのは何度も経験したものの、まあその程度のことはもはや今の人間の世界では日常の一コマに過ぎないので、それほど気にする者もいない。


かつては、ウラシマ効果を利用して自分だけ若さを保つというのが流行った時期もあったらしい。しかし、老化抑制技術の進歩と、『自分は若さを保ってる』と言ってみても、自分自身の体感の時間ではやはり老化の速度を抑えているわけではないから、


<ただの錯覚による自己満足>


でしかないことが実感されるにつれて廃れていったそうだ。


などとまた話が逸れたが、とにかく、メイガスも自身の感覚と実際の時間経過のズレには唖然とさせられたようだ。


それでも、


「そう…か……つまりシモーヌもビアンカも私と同じように、ってことか」


すぐに察してくれた。


だから俺も、


「ああ。シモーヌと久利生くりうは、体が透明になっただけの状態だが、ビアンカに至っては、あなたとはまた別の形で大きく変化してるよ」


包み隠さず告げる。


すると、メイガスは、


「!? 久利生くりうもいるのか!?」


と声を。


「そうか。久利生くりうもローバーで河を遡上したことがあったんだが、その時には見掛けなかったんだな。でも、確かに久利生くりうもいるんだ」


俺の説明に、


「なるほど」


納得したメイガスだったが、さらに、


「シモーヌや久利生くりうは透明になったのか……」


と呟いたので、


「いや、メイガス。あなたも実は透明なんだ。今のあなたを俺達は<ワニ人間クロコディア>と称してるんだが、クロコディアには透明な体を通過してきた光が捉えられないらしくて、それで不透明な<アルビノ>的に見えていることは分かっている。他の種には透明に見えているんだよ」


補足する。これについては、


「ああ、なるほど。そういうことか」


彼女にとってもそれほど驚くに値しない情報だったらしく、すんなりと受け止めてくれた。けれど、


「ビアンカも、私のように大きな変化があると言ってたね。それはどういう……?」


とも問い掛けてきたのだった。


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