当編 次の段階

新暦〇〇三三年六月二十七日。




そうして、ルコアのことも<あたるの嫁(仮)>のことも注視しつつ日々は過ぎていった。最初の『数日、コーネリアス号に滞在してもらう』という方針は完全に撤回してな。


ルコアについては、ビアンカが彼女のことをまるで実の妹のように、それどころか実の娘のように親身になって接してくれてるからか、今でも時々泣いたりはしつつも、毎日を淡々と過ごすことはできている。


『両親と会えない』というのは、亡くしたのと同じだからな。


親を亡くした子供がほんの数ヶ月で完全に立ち直れるとか無責任な人間は思うかもしれないが、仮にも成人した後だった俺でも、両親を事故で亡くしたことから自分で、


『もう大丈夫だ』


と思えるようになったのは何年も経ってからだった。


上辺だけは平気なフリはできても、正直、ちょっとしたことで精神的に不安定になったりもした。


まあ、俺の場合は、妹の難病っていう事情も重なったとはいえ、両親のことだけでも結構きつかったよ。


だとしたら、


『自分の体が異形に変化してしまった』


という事情も重なったルコアだって、年単位のタイムスケジュールは見ておかなきゃいけないさ。そのための体制だ。


するとルコアは、ビアンカだけでなく、モニカにも少しずつ心を開いてくれていったようだ。


大きなクモのような部分を除けば人間に近いビアンカと違い、完全にロボットそのもののモニカは、ルコアにとっては異様な存在にも感じられていただろう。


でも、甲斐甲斐しく自分の身の回りのことをしてくれるモニカが危険なものでないことはどうやら伝わったらしく、近付いても怯えなくなっていったんだ。


それどころか、<あやとり>を一緒にするところまで。


こうなれば次の段階に進めるだろうか。


<次の段階>


それは、ビアンカが傍にいなくても落ち着いていられるようになること。


最初は、パトロールと称してビアンカがコーネリアス号の周りを見て歩き、その間、ルコアはモニカやハートマンと留守番という形からだった。


しかも、時間は五分程度から始めて、大丈夫そうなのを確かめつつ、十分、十五分と延ばしていった。


これはビアンカのためでもあるんだ。週に数回、一人でビクキアテグ村に帰って、久利生くりうと愛し合えるようにするための、な。


何度も言うが、ルコアのことも大事ではありつつ、そのためにビアンカを犠牲にはできない。それぞれが折り合うために必要な対応なんだと思う。










新暦〇〇三三年十月二日。




ルコアを保護してから半年以上が経ち、<あたるの嫁(仮)>も、順調だった。妊娠も順調らしく、お腹が大きくなってきている。


で、いよいよ出産が迫ってきていた。


他のクロコディアに邪魔されないように、かつ、アーマードピラルクのような天敵に狙われないように、本流に合流している小さな川を遡って二人きりに。


もちろんこちらもドローンを先回りさせて木にとまらせ、見守る。


特に<あたるの嫁(仮)>はドローンに見られていることを意識してるみたいだから、なるべく気にならないようにこちらとしても配慮したい。


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