当編 気まぐれ

アーマードピラルクがクロコディアの子供を跳ね飛ばして意識を失わせ喰らおうとしたところを、何者かがその子を横からかっさらった。


「あ…っ!」


俺も思わず声を上げてしまう。


あたるの嫁(仮)>だ。彼女が子供を抱きかかえて、ジャンプしたんだ。


まるでイルカのように。


これがクロコディアの力だ。ワニのような特徴を持ちながらも、イルカに近い動きもする。


そして何度もジャンプして、アーマードピラルクを翻弄。河岸にたどり着く。


するとさすがに、クロコディアのようには動けない、当然、陸にも上がれないアーマードピラルクでは追いすがることもできず、諦める他なかった。


向こうも生きるために狩りをしているのだから少々申し訳なくもあるが、実際には他にも餌は豊富なはずなので、すぐに別の魚でも捕えるだろう。命に係わるほどのことじゃないと思う。


それでいて、クロコディアの子供にとっては本当に命に係わることだったからな。幸い、当のクロコディアの子供はすぐに意識を取り戻して、彼女の手を振りほどいて河に飛び込んだ。当然、礼の一つもなかったものの、人間じゃないんだからそれが普通だ。


しかし、これで、<あたるの嫁(仮)>に対する俺の疑念はさらに深まったと言える。


クロコディアは、パートナーや我が子であれば確かに守ることもするものの、その一方で、余所の子供を守ったりなんてことは、基本的にはしない。


ただ、それ自体、『決してない』というわけでもないから、今回のがたまたま気まぐれで救っただけだということも有り得なくはない。


ないんだが、それにしたってこんなに都合よく助けたりするだろうか……?


そう思ってしまう。


とは言え、この時も確証は得られないまま、


『まあ、今後も注意深く見守っていくか……』


そんな風に思っただけだった。




一方、ルコアの方は、彼女用のトイレを、彼女が入れる<風呂>がある方の隔離室に作らせてもらった。


作ったのはハートマン(ドライツェン初号機)だ。ビアンカと一緒にルコアを保護したグレイについてはビクキアテグ村に帰還してもらった。コーネリアス号内とその周辺については基本的にハートマンの管轄だからな。


なお、アリスシリーズが家事一般に特化したロボットである代わりに、ドライツェンシリーズは警備や重作業に特化したロボットである。エレクシアはその両方をこなせる高性能なロボットだが、今の設備や技術じゃ、エレクシアと同等のロボットは到底作れない。だから、それぞれ用途を限定してアリスシリーズとドライツェンシリーズを作ることにしたんだ。


そのおかげで、ハートマンはちゃんとしたトイレを作ってくれた。


普通の人間が使うには広すぎて落ち着かないものの、全長七メートルを超えるルコアが無理なく用を足せるように、エレクシアに設計を頼んで作ってもらったんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る