晴編 救援要請

かんの子は、せいを相手に一歩も引かなかった。


せいのカマによる連続攻撃にも怯まない。


それどころか、脇が甘いと見るや蹴りを繰り出し、それを受けたせいが、


「ギッ!?」


と声を上げて吹っ飛ばされた。体格差が効いたんだろう。


人間で見れば二十歳くらいの若者が、十代前半のまだ<子供>と言ってもおかしくない相手に容赦ない蹴りを喰らわせたんだ。普通なら警察沙汰だ。


が、ここには警察なんてものはないし、あったとしても野生の獣人同士がそれぞれの習性に従ってぶつかり合ってるだけだから、<事件>でさえない。


基本的に気にしてるのは俺だけだ。当の、かんの子とせい自身はどちらも何とも思ってないだろうな。


思いっ切り蹴り飛ばされて地面を転がったとしても。


それを裏付けるようにせいはすぐさま立ち上がり、かんの子の追撃を躱してみせた。


しかも、逃げるのではなく、伸ばされた爪の下をかいくぐり、鈍器のような硬い頭を腹へと叩きつける。


「げふっ!?」


今度はかんの子が声を上げた。


マンティアンの成体のそれをただの人間(地球人)が無防備に受けると、下手をすれば内臓が破裂する可能性すらあるという。


しかし、そこはさすがに相手も野生のパルディア(外見はレオンの特徴が強く出てるが)。毛皮の上からでも分かる<シックスパック>は伊達じゃない。


一瞬怯んだものの、反射的に膝を跳ね上げせいの顔面を捉えると同時に上から掌打を叩きつける。


丁度、バスケットボールで相手の手にあるボールを叩き落とす感じのような。


この連続攻撃はせいにとっても想定外だったようだ。


バランスを崩して顔から地面に落ちる。それも、明らかにダメージを受けている感じで。


膝蹴りを顔面に受けた際に、意識が飛んだのかもしれない。


これはマズいぞ!


俺は直感的にそう感じてしまった。


せい…っ!?」


声も出てしまう。


とその時、映像を捉えていたドローンが急接近。かんの子の顔面へと突撃した。


が、それは当たることなく、かんの子が後ろに跳び退く。しかし結果としてせいにとって助け舟となり、意識を取り戻したらしいせいが、凄まじい速さで茂みへと飛び込むのがカメラに捉えられていた。


逃げたんだ。自分の敗北を察して。


かんの子の勝利だった。


だが、せいも無理をすることなく逃げてくれたことで、俺は、


「はあ……っ!」


大きく安堵の溜息を漏らした。


いやいやまったく、心臓に悪い。


だが、突然、ドローンがかんの子に急接近したのは、せいの名を呼んだ俺の声色を光莉ひかり号のAIが<救援要請>と解釈。即座に反応したらしい。


つまりその時の俺の声が、


せいを助けろ!!』


というニュアンスを含んだものになってたということだな。


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