晴編 動物園

せいは、


<密林最強クラスのハンター、マンティアン>


としてごくごく当然の生き方をしていた。その中で、<かんの子>と遭遇してしまっただけだ。


錬是れんぜ……」


タブレットに映し出される映像を食い入るように見ている俺を背を、シモーヌがそっと撫でてくれる。彼女の気遣いが嬉しい。でも、胸がぎゅーっと締め付けられる。


俺の<孫>と<曾孫>が、殺し合おうとしてるんだ。


分かってる。俺の血を引くすべての存在を一人も漏らさず守りきるなんてことはできないくらい。むしろここまで被害を出さずにこれたことが奇跡なんだ。


そして、野生に生きる限りは、俺の血を引く者同士がこうやって殺し合うことになるのも、すべてを止めることはできない。いずれはどこかで線を引かなきゃいけなかった。それだけの話だ。


でも、本当はやめてほしい。それもまた偽らざる気持ちだ。


これまでと同じように、<エゴ>だと承知の上で止めたとしても、シモーヌもひかりも俺を責めたりはしないだろう。


それも分かってる。


だが、せいかんの子が生きているのは、人間(地球人)の世界じゃない。そしてあの子らは、『人間(地球人)として』生きてるわけじゃない。


<人間(地球人)>と<彼ら>は違う。


こちらの感覚を彼らに押し付けるのは違うんだ。


彼らには人間(地球人)と同じ生き方はできない。俺のところで暮らしているしんほむらあらたさいうららえいだって、今はあかり達と一緒に暮らしているきたるだって、決して『人間として』生きてるわけじゃない。彼らは彼らとして生きつつ、その上で折り合いを付けられているだけだ。


めいじょうしょうすいほまれ達を狙わないのも、実の兄弟姉妹として一緒に暮らしたことに加え、


ほまれ達を狙わなくても生きていける』


という環境があってこそのものだっていうのは間違いないと思う。


俺はその<ほまれ達を狙わなくても生きていける環境>を守りたいから、大規模な開発をしてこなかった。


それもいずれは、<朋群ほうむ人達の社会>が拡大することで守れなくなるとしても、少なくとも俺が生きている間は、俺個人の望みとして貫いていこうと思ってる。


でもそれは同時に、俺の下で育ったわけじゃないせいかんの子らに<俺の想い>は届かないという意味でもある。


思いっ切り開発して、まるで動物園のように<管理>すれば、もしかしたら戦わずに済むかもしれない。


だけど、『それは違う』という想いも確かに俺の中にある。


何もかもが俺にとって都合のいい世界など、作れるはずがないこともまた現実。


諦めずに努力したいと思いつつ、いずれは手が届かなくなることも現実なんだ。それどころかもうすでに、俺の知らないところで俺の血を引いた子達が命を落としてる可能性もある。こうの子が把握できてないからな。かんの子についても、実は全員が把握できてる保証もない。


もうその段階に来てるんだ。


それを認めずにダダをこねれば、きっと俺は、この世界を滅茶苦茶にしてしまうだろう。


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