來編 よく知らないから

家から飛び出したビアンカを、あかりが追った。


あかりとしては、この場は自分が行くべきだと思ったそうだ。このハーレムを築くことを提案したのは自分だから。


久利生くりうにはそれを呑んでもらっただけだから。


それに彼にはきたるを見ていてもらわなければいけない。きたるも大事な家族だ。疎かにはできない。


で、ここから先は、あかりとビアンカの証言から構成した話でお送りする。




「ビアンカ……」


家から飛び出したビアンカは、川のほとりで立ち止まっていた。その彼女に、あかりが声を掛ける。


が、その前に、


「さすがに襲ってはこないか……」


川の向こう岸、百メートルくらい離れたところにいくつもの小さな光が見えたので、そちらに意識を向ける。オオカミ竜オオカミの目だった。それが、家から漏れる照明の光を反射してるのだ。


しかしあかりが言うとおり、襲ってくる様子はない。攻撃的な気配を発していない。近くまで様子を窺いに来たのだろうが、突然現れたのが巨大な体を持つアラニーズのビアンカだったことで、完全に気勢を削がれてしまったのだろう。


なのでまあそちらは大丈夫だとして、あかりは改めてビアンカに向き直って言う。


「ビアンカは、久利生くりうのことが信じられない?」


野生寄りのメンタルを持つあかりは、ここで同情して慰めるようなことは言わなかった。単刀直入に、必要なことだけを口にする。


「……」


そんなあかりに、ビアンカは何も言えなかった。彼女の言いたいことは分かっても、自分の言いたいことが上手く言葉にできなかった。できなかったが、懸命に考えた。今の自分の気持ちをなんとか表現して伝えようと思った。


それはもしかすると、彼女が軍人で、しかも惑星探査チームの一員にも選ばれるほどの人材だったからできたことかもしれない。こういう時、ついつい自分の感情をただ爆発させるばかりで、自分の気持ちだけを一方的に分かってもらおうとして、ただただ支離滅裂に怒鳴り散らしてしまう者もいるだろう。


けれどビアンカはそうじゃなかった。上手くできないなりに何とか自分自身と折り合おうと努めた。


そして、彼女にはそれができることを知っていたからこそ、あかりは一緒に暮らすことを決断できた。ゆえに言える。


「ビアンカ、私は久利生くりうを信じてるよ。だからビアンカと久利生くりうを幸せにできると思ったんだ」


するとようやく、ビアンカも言葉を紡ぐことができた。


「私も、あかりとなら大丈夫だと思えた……あかりがそう言うのなら、大丈夫だと思えた……


あかりとだったら、どっちが先とかどうでもよかった……って、本音を言ったらどうでもよくはないけど、まだ、我慢できたと思う。


でも、私、あかりほどきたるのこと、よく知らないから……」


なんとか絞り出すようにして、この時の自分の気持ちを口にしたのだった。


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