來編 花嫁の父親

<結婚する娘を前にして泣いてしまう父親>


とか、俺はドラマとかの中だけのことかと思っていた。だが、それがいざ自分の番となると、泣けてしまうものなんだな……


「はは……花嫁の父親ってこういうことか……」


思わず口にも漏れてしまう。


するとあかりも、


「お父さん、ありがとう……」


潤んだ目で言ってくれた。


「ばかやろう……そんな風に言われたら余計に泣けてくるじゃねーかよ……」


ついそんな風に返してしまった。対してあかりは今度は、


「泣かすために言ってんじゃん。決まってんだろ……!」


だと。言うじゃねーか、この不良娘が……!


ここまで来ると、シモーヌもビアンカも涙ぐんでた。


まったく、こんなしんみりした感じにするつもりなかったのにな……


でも、悪くない。こういうのも、な……


一通り泣いて、ようやく落ち着いてきたところで気を取り直して、


「改めて三人をよろしく頼む。あかりももちろんだが、きたるもビアンカも俺にとっては娘みたいなものだ。幸せにしてやってくれ」


久利生くりうに向かって言うと、あかりがまた、


「お父さん、そうじゃないよ。私がビアンカときたる久利生くりうを幸せにするんだ」


笑顔で胸を張る。そんなあかりに続いて、ビアンカも、


「そうですよ、私があかりと少佐ときたるを幸せにするんです!」


自分の胸を叩きながら言った。そこに久利生くりうも、


「なら僕は、ビアンカとあかりきたるを幸せにしなくちゃね」


と。


そんな三人に今度はシモーヌが、


「三人の言うとおりだね。どっちかがどっちかを一方的に幸せにするのが<結婚>じゃない。お互いに相手を幸せにしなくちゃ結婚する意味がないよ」


だと。


こうなると俺も、


「ああ、そうだな。そのとおりだ」


と言うしかなかった。


確かに、互いに自立した人間同士で共に暮らしていくのなら、それは片方ばかりが努力して相手を幸せにするというのは違うと思う。でなきゃ対等な関係なんて言えないだろう。実際、人間社会での結婚もそういうもののはずだ。


三人は、いや、きたるも含めた四人は、互いに力を合わせて幸せを作り上げていくんだ。


きたるは他の三人とは生活様式から何から全然違うから人間と同じにはできないにしても、俺にとってのひそかじんふくようのような存在になってくれると思う。


彼女は彼女なりのやり方で久利生くりうを愛するだろう。


もっとも、子供ができたら、


『はい、さよなら』


の可能性も高いけどな。


だがそれについては最初から分かってることだ。人間と同じやり方をしてくれないからって憤るのは違うと思う。


彼女は彼女として久利生くりうも受け止めてくれるだろう。


彼は本当は弱い人間かもしれないが、弱い部分がない人間なんてたぶんいない。


自分の弱さを自覚した上で対処できるのが<強い>ってことだと俺は思う。


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