走・凱編 洗濯機

振り返ることなく密林へと入っていくメイフェアを見送ると、彼女から作業を引き継いだエレクシアがローバーの荷台からコンロや洗濯機を下ろし、さっそく設置に移る。


こちらもさすがにロボットだけあって、ビアンカ用に持ち帰った、シーツなどをまとめて洗うための大型の洗濯機を難なく一人で持ち上げて、家へと運び込んでいく。


そして、頭頂高ともなれば三メートル近い形になるビアンカが使いやすいように一メートル以上の台の上に洗濯機を置いた。


一連の作業は、エレクシアに任せておくのが一番効率的なので、俺達はただ見守るだけだ。


「あれ、洗濯機? でっか…!」


あかりが驚いたように声を上げる。なるほどあかりは通常サイズの洗濯機しか見たことがなかったからな。無理もない。


設置した洗濯機をしっかりと固定し、その上でエレクシアは周囲を回って何かを確かめるように見ていた。台や床に掛かる応力をカメラで解析し、十分な強度が確保されているかを確認しているんだ。これも今までの普通の洗濯機の設置とはまったく事情が異なるからな。万が一にも床が抜けたり台が壊れたりというのがあってもらっちゃ困るし。


子供達が遊びまくってドアや窓を壊すのとは訳が違う。大きな事故にもなりかねないことだから、しっかりと対応するんだ。


問題なく固定されていることを再度確認し、それから配水を行う。給水用のホースを繋ぎ、排水用のホースも繋ぐ。生活排水は、今ではコーネリアス号に積まれていた予備の浄水装置を持ってきて処理している。


以前にも言ったが、洗濯には洗剤は基本的に用いない。人間社会で流通してる繊維は、高度な防汚処理が施されているので、水で洗うだけで十分綺麗になるんだ。


コーネリアス号に備蓄されていた予備の服を使っている分にはそれでいけるものの、やはり無限ではないので、今では開墾の際に伐採された樹木や植物を利用して繊維を作り、それを基に服も作っている。


ただ、さすがにここで新たに作った<服>には、人間社会で流通しているそれほどの防汚機能はない。しかし迂闊に洗剤を使って環境を汚染したくはないので、植物から採取された殺菌作用のある成分を投入して菌が繁殖しないようにするだけで、ほぼ水洗いに近い形で洗濯している状態だ。


なので使っているうちに色が変わってきたりもするんだが、そこは逆に、純天然繊維を使ってる強みで敢えて早々に捨てることにしている。セルロースが主原料になっているので簡単には土に戻らないものの燃やして灰にした上で撒いておけば、それはそれで肥料にもなるからな。


これは、<服>を着ているのが、俺、シモーヌ、ひかりあかりじゅんまどかひなたれいの十人足らずという少人数だったから成立していることでもある。


とは言え、そこにビアンカが加わったくらいならそんなに影響もないだろう。


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