走・凱編 度量の大きさ

ローバーの改造も終わり、ビアンカの<家>に設置するためのコンロや洗濯機を準備して積み込みも終わり、今までにも頻繁にメンテナンスを行ってきたメイフェアのメンテナンスも十分程度で終わり、こうしてビアンカの<里帰り>は無事に終わった。


それによって俺達の家に帰ることになり。新しい<席>に収まったビアンカにシモーヌが声を掛ける。


「どう? 仮設のそれよりはいくらかマシになったとは思うんだけど」


するとビアンカは、透明なキャノピー状になった、跳ね上げつつ後方へスライドする方式のハッチを開けたり閉めたりして自身の治まり具合を確かめ、


「はい、すごく良くなりました。これなら快適に座ってられそうです」


と応えてくれた。音声だけだが、俺もその様子を窺う。ビアンカの声の調子などを知りたいからだ。こうして普段の彼女の感じを知ることで、精神的に不安的になっていたり思い悩んでいることがあったりした時にその違いを察することができるからな。


これは俺が子供達の機嫌などを察するためにしてきたことでもあった。


身近な人間のそういうのを察することが、<察し>や<思いやり>に役に立つんだと俺は思ってる。自分が誰かに察してもらうことばかりを期待するんじゃなくて、自分の方から察することを心掛けるんだ。そうしてこそ、自分のことを察してもらえる。


普通は子供の頃に親がそうしているのを見て学ぶと思うんだ。子供のうちなら一方的に気遣われてても許されるしな。なにしろ経験が少なくてまさにそういうものを学んでいる最中なんだから上手くできなくて当然だし。


ただ、大人になってから一方的に気遣ってもらうことを期待するのはさすがにな。気遣う方にしたって気分が悪いだろう。


その点、ビアンカはまだ生まれたばかりだ。<ビアンカ・ラッセとしての記憶>があったところでそれは彼女が自ら経験して学んで身に付けてきたことじゃない。その記憶は、どこまで行っても<他人の物>なんだ。この惑星で生まれたビアンカとしては、全てはこれからだ。だから今はまだ一方的に甘えてくれればいいんだ。


とは言っても、彼女にとって俺達が<甘えても大丈夫な相手>に見えていなければ素直に甘えることもできないだろう。


これは、そうけいに対してやっていたことでもある。自分に対して甘えることを許してたんだ。そうすることで自分が頼れる存在であることを示してたとも言えるだろうな。


しかも、それは、せん達、自分やかいをイジメていた雌達に対してもそうだった。強さを見せ付けつつ、受け入れる度量の大きさも見せ付ける。


それによって彼女達の心も掴んだわけだ。


そんなそうを見倣って、かいも同じようにできてたんだよな。


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