走・凱編 綺麗な惑星

きょうみずちがくは、俺や、俺の家族と敵対し命を脅かそうとしたから戦い、たまたま俺達がそれに勝利しただけだ。俺達に関わることなく自分の命を全うしてくれるならそれで良かった。排除するつもりもなかった。


それだけのことなんだよ。


自分にとって都合の悪い命というのも確かに存在するだろうが、それは他の命にとって俺達が<都合の悪い命>である場合もあるだろうから、それについてもお互い様だと思ってる。そういう形で衝突して、結果として俺達の方が負けることだってあるかもしれない。


それもまた、生きるということだと思う。


もちろん、生きる為にとことん足掻かせてはもらうけどな。


そういうわけで、ビアンカを見守る。


メイフェアがジャマになる木の枝を掃い、いつもよりは倍ほどの時間がかかったものの河に出れば後はスムーズだった。


ビアンカが上に乗っていることで重心が上がっていても、ルーフキャリアに多くの荷物を積んで航行するというのも元々想定された使い方であり設計上も考慮されているので、速度さえ出しすぎなければ問題ない。


なお、シモーヌと違ってビアンカの方は、ファンデーションで色を着けることはせず、透明な体のままだった。


というのも、試しに人間部分にファンデーションを塗ってみると余計に艶めかしくなってしまったからだ。それを思えば透明な方がまだマシと、塗らないことにしたんだと。


いろいろ難しいな。


そんなビアンカは、ローバーの自分の席からこの世界の景色をどう見ただろうか。


シモーヌによると、コーネリアス号の乗員達は、最初こそこの惑星についていろいろ調べようとしたものの、例の不定形生物の襲撃により半数の乗員を喪ったことで籠城戦に徹することになり、以降はほとんど調査らしい調査ができなかったそうだ。すぐにコーネリアス号に逃げ込める程度の範囲で生物や土などを蒐集し分析した程度だという。


なので、コーネリアス号乗員としてのビアンカ・ラッセにとっても、眼前に広がる光景は特別なものだったかもしれない。


「綺麗な惑星ほしですね……」


マイクとスピーカーを備えたドローンを、ビアンカの<席>にも設置し、それを通じて会話できるようにしてある。


はっきりとした記憶はなくても、彼女の中にある<ビアンカ・ラッセとしての感性>が、それを言わせたのかもしれないな。


「そうね。ここはとても厳しい世界だけど、同時に素晴らしい世界でもあると私は思う。だって、今の家族に出逢えたから」


シモーヌが応えると、ビアンカも、


「私も、その一員になれますか……?」


と問い掛ける。


「! もちろんよ! あなたも私達の家族になれる!」


そう言ったシモーヌの声が、子供みたいにはしゃいでいるのが分かったのだった。


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