明編 目的地
『間に合ってくれ……!』
そう祈る俺の気持ちなどもちろん届くはずもなく、
なのに彼女は、僅かに方向を変えるものの、何か目的地でもあるかのように前へ前へと進む。
その進路は、
「マスターの家がある方向を目指している可能性があります」
とのことだった。その途中に、
「俺達の…?」
それを聞いた瞬間、ハッとなった。そう言えば
もしかすると、そこに何があるのかよく分からないまま、何となく目指しているという感じなのだろうか。いやでも、
ビアンカも、自分の姿をドローンに晒すのは望みではないものの、人間のいる場所を目指しているということなのかもしれないな。ドローンを使っているのに接触してこないことも、彼女にしてみれば疑問だろうし。
もっとも、最初はいろいろ記憶が混乱していたシモーヌの例もあるわけで、自分が何者か、何故ここにいるのか、何をしようとしてるのか本人もよく分かっていないのかもしれない。完全に人間としての意識があるのなら、発想があるのなら、ドローンに対して話し掛けることくらいはしてもおかしくないだろうしな。
ここで今作ってるドローンはスピーカーまでは装備してないものの、一般的には音声を拾うためのマイクが装備されているのは普通だし。それを知らない筈もないし。
だから、裸でいることが恥ずかしい、カメラに自分の姿を晒すのは恥ずかしい、程度の意識はあるものの、
<コーネリアス号乗員、ビアンカ・ラッセ>
としての意識は明確じゃない状態である可能性もある。
いずれにせよすべては彼女を保護してからの話だ。
ビアンカまでの距離はあと約一キロほど。
マズいな……非常にマズい。
「エレクシア。場合によっては先行して二人を止めてくれ。俺もローバーで向かう」
「了解しました」
それを確認しながらも、ギリギリまで接近を試みたのだった。
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