明編 目的地

『間に合ってくれ……!』


そう祈る俺の気持ちなどもちろん届くはずもなく、せいを胸にしがみつかせためいと、するすると密林を進むビアンカの距離はみるみる狭まっていった。


めいに俺の声を届けようとしても届けられないことから、ドローンを避けようとしたビアンカの動きを思いだし彼女の進行方向にわざとドローンを配し、方向を変えようと試みる。


なのに彼女は、僅かに方向を変えるものの、何か目的地でもあるかのように前へ前へと進む。


その進路は、


「マスターの家がある方向を目指している可能性があります」


とのことだった。その途中に、めいの縄張りを横切ることになるのだ。


「俺達の…?」


それを聞いた瞬間、ハッとなった。そう言えばがくも俺達のいる場所を目指してるかのような動きをしてたな。


もしかすると、そこに何があるのかよく分からないまま、何となく目指しているという感じなのだろうか。いやでも、がくの場合はドーベルマンDK-aにも反応していたから、やっぱり人間の気配のする方へと向かっていたのかもしれない。


ビアンカも、自分の姿をドローンに晒すのは望みではないものの、人間のいる場所を目指しているということなのかもしれないな。ドローンを使っているのに接触してこないことも、彼女にしてみれば疑問だろうし。


もっとも、最初はいろいろ記憶が混乱していたシモーヌの例もあるわけで、自分が何者か、何故ここにいるのか、何をしようとしてるのか本人もよく分かっていないのかもしれない。完全に人間としての意識があるのなら、発想があるのなら、ドローンに対して話し掛けることくらいはしてもおかしくないだろうしな。


ここで今作ってるドローンはスピーカーまでは装備してないものの、一般的には音声を拾うためのマイクが装備されているのは普通だし。それを知らない筈もないし。


だから、裸でいることが恥ずかしい、カメラに自分の姿を晒すのは恥ずかしい、程度の意識はあるものの、


<コーネリアス号乗員、ビアンカ・ラッセ>


としての意識は明確じゃない状態である可能性もある。


いずれにせよすべては彼女を保護してからの話だ。


めいの方にもドローンをまとわりつかせるものの、迷惑そうに振り払いながらも方向を変える様子はない。今日はそのルートで縄張りの見回りをすると決めたのだろう。


ビアンカまでの距離はあと約一キロほど。めいとビアンカの距離は五百メートル弱。


マズいな……非常にマズい。


「エレクシア。場合によっては先行して二人を止めてくれ。俺もローバーで向かう」


「了解しました」


それを確認しながらも、ギリギリまで接近を試みたのだった。


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