明編 親子関係

『子供の為に人生を費やしてる』


そんな風に考えていると、なるほど見返りを求めたくもなるかもしれないな。


しかし子供の方からすれば、


『頼んでもないのに勝手に生んでおいて育ててやったから見返りを寄こせとか、どんな悪徳商法だ!?』


と思ってしまっても無理もない気がするな。


まるで、


『身に覚えのない荷物が届いて受け取ったら代金を要求された』


的な不快さがあると思う。


そう考えると、『育ててやってるんだ』という下心が透けて見える親に対して子供が反発するのは、むしろ当然の反応じゃないだろうか。いわゆる<反抗期>というのは、そういうことなんじゃないのか?


エレクシアによると、実際にそういう説を唱えている専門家もいるそうだ。


彼女は言う。


「人間にとって<押し売り>という行為が不快であることは、既に確認されている事実です。ですので私達ロボットは、人間に対して決して見返りを要求しません。


ですが、『見返りを要求するのが当たり前』と考えてらっしゃる方は、その『見返りを要求しない』という姿勢そのものに違和感を覚える場合もあるのだといいます。『何か裏があるのか?』と勘繰ってしまうようですね。


私達ロボットは、そういう人間のありとあらゆる反応に触れてきました。ですが、今なお、<百パーセントの正解の対応>を得るには至っていません。それは、人間には<心>があるからです。心というものの奥深さのすべてが解明できていないからです。だから、AIは心を再現できない。AIの思考には、すべて明確な答えがあります。これが、人間と私達ロボットとの違いなのでしょう。


メイフェアらで試みられた<人間の心をAIで再現する実験>も結果として失敗に終わったことは、彼女らよりも高次なAIを備える私であれば彼女らの<心を模した反応>のすべてが解析できてしまうことからも明白です。


私のAIは、人間の心を完全には解析できません。つまり、解析できるということはそれはすなわち『心ではない』という何よりの証拠なのです。


ですので、私達メイトギアが人間を一からすべて育てれば完璧な人間に育つわけではありません。人間の心が持つ解析不能な非合理性も必要なものなのでしょう。


これは、『親に育てられたのだからそれを無条件に感謝しろ』と言われても多くの人間が受け入れられないことも表しています。自身がなぜ親に反発せずにいられないのかを理解してるしていないに拘わらず反発する場合があるのも、人間に心があるからですね。


そして人間は、自身の心を否定されることに大変なストレスを感じます。


それが親子関係を拗れさせるのでしょう」


と。


それがまた、俺の両親の接し方が俺にとっては<正解>だったことを裏付けてくれていた。


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