誉編 最終防衛ライン その2

『犠牲が出るかどうか』


正直、ほまれ達の縄張りの近くで戦闘を行うということは、当然、ほまれ達が巻き込まれる危険性がそれだけ高くなるということでもある。犠牲が出るかもしれないというのは、そういう意味だ。


無論、そんなことなどあって欲しくはないものの、想定しない訳にもいかない。


感情論の問題じゃないからな。


しかし、<感情(のようなもの)>を備えたメイフェアは当然、犠牲など出したくもないだろう。


ほまれ様達は私が必ず守ってみせます…!」


と意気込んでいた。


実際、彼女なら守ってくれると思う。


俺は彼女が最大限能力を発揮できるようにしてやるだけだ。


で、肝心のがくはと言うと、ドーベルマンDK-a拾号機と拾壱号機が頑張ってくれて、かなり足止めができていた。


と言っても、ダメージを与えられているという意味ではなく、あくまで、


『気を引いて進攻を遅らせる』


程度ではあるが。


だが、戦闘力の差を考えれば、それで十分だ。真っ向からやり合えば一分ともたないだろう。がくを間に置く形で距離を保ちつつ拾号機と拾壱号機が交互に攻撃し、注意を引くんだ。


そしてそれが、俺にとっては光明でもあった。


さりとて、とにかく今はがくを何とかしなきゃならない。


なにしろ、密林に侵入したがくは、道すがら、逃げ遅れた他の群れのパパニアンの何人かを捕食している。


ここまで追い込まれては、もう、俺としても感傷に浸ってる余裕もなかった。


がくを倒す。確実に』


それしか頭にない。


でなければ、今度はほまれ達が、同じように犠牲になるかもしれない。ドローンや拾号機や拾壱号機に捉えられた光景が、より一層、俺に現実を突き付けてくる。より強力な怪物が現れる可能性があっても、それはその時考える。


そんな俺のことが分かっているのかいないのか、がくは、拾号機と拾壱号機に惑わされながらもこちらに近付いてきていた。


あいつにきょうの記憶があるのなら、元々の縄張りに戻ろうとしているのか、それとも、何かの方法で俺達のことを察知しているのか。


きょうの記憶があるとすれば、人間を憎んでいるだろうしな。


「来ます……」


エレクシアがやはり淡々とそう告げた。


だから俺も、


「やれ。がくを駆除しろ。今度こそ確実に」


と、敢えて感情を込めずに命令した。


いや、正直、顔が強張ってそんな言い方しかできなかったというのもあるが。


「承知しました。マスター」


エレクシアは応え、メイフェアとイレーネを伴って走り出す。俺の目にはまだ捉えられないがくに向かって。


『頼む…エレクシア…メイフェア…イレーネ……』


両手をがっしりと組み合わせ、俺は祈った。俺の家族を守ってくれることももちろんだが、彼女達も無事に帰ってきてくれることを願って。


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