誉編 命 その1

新暦〇〇二七年五月六日。




パパニアンの群れを率いているほまれには、現在、三人の<妻>がいる。


一人目は、三代前のボスの娘で、ほまれがこの群れに加わった時から一番仲の良かった<あお>。パパニアンの中では彼が最も頼りにしている、いわば第一夫人といったところか。


二人目は、三代前のボスのパートナーの一人だったしずか。年齢はほまれよりもかなり上で、群れでも現時点では上から三番目という熟女だ。三代前のボスの寵愛を受けて群れの中での立場が強く、ある意味では<お局様>的な存在だった雌だ。彼女に気にいられたことが、ほまれをボスの座に就かせた大きな要因の一つになったと言っても過言ではないだろう。


そして三人目が、みことである。


実は彼女は出自が長らく謎で、誰の子かも分からずいつの間にか群れに加わっていた若い雌だった。


それが、故障によって行方不明になっていたドローンの一機が最近になって回収され、その映像データを解析したことで判明したんだ。




「ああ、やっぱりグンタイ竜グンタイの一件の時に行方不明になってたやつだな」


メイフェアが、群れの警護の為に移動中、たまたま発見したという故障したドローンを回収してくれたのを調べて俺はそんなことを呟いていた。


「私がここに来る前に起こった事件ですね」


一緒に調べていたシモーヌが言う。そうだ。彼女が発見され救出される以前、グンタイ竜グンタイと俺が呼んでいた凶暴な肉食獣が異常繁殖し、パパニアンの群れが一つ壊滅するという<事件>があったんだ。


それが起こった頃に、監視の為にその辺りを飛行中だったこのドローンは、何らかの理由で故障して墜落。木の枝の間に挟まった状態で今回発見されるまで何年もそのままになってたのだった。


メイトギアのような高価なロボットと違い、ある意味では使い捨てに近い形でどんどん消費される形のこの種のドローンは、耐久性もそれほど高くない。だからコーネリアス号にも何千という単位で搭載されてたんだ。


しかし、記録した映像や音声といったデータはストレージに保存され、運よく回収できた場合にはそれらを分析することもできる。


まさに今回のようにな。


で、そこに記録された映像を再生していて、


「……もしかして、これ、みこと、か……?」


タブレットに映し出された光景の中に、まだ殆ど赤ん坊のような幼いパパニアンが一人、木の上で酷く怯えているのに気付いたんだ。しかも、パパニアンの顔の区別がつくくらいに見慣れた俺には、それがみことに見えたのだった。


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