普通の父親は、自分の娘が＜子づくり宣言＞などすれば複雑な気分になったりするのかもしれないが、俺も、いよいよとなれば相手の男に嫉妬したりするかもしれないと思ったりもしたが、その辺りは何だか、自分でも意外なほどに落ち着いていた気がする。

何だろう。相手が順（じゅん）だからかな。

順（じゅん）が命懸けで光（ひかり）を守ろうとしてくれたことが実感できたからかな。あいつになら娘を任せてもいいっていう気持ちになれたのもあるかもしれない。

確かに向こう見ずで無茶が過ぎるかもしれないが、それでも順（じゅん）はあくまでれっきとした＜ボノボ人間（パパニアン）の雄＞として育ってきたんだ。俺達の感覚をそのまま当てはめることはできない。

あいつの今回の行動は、＜人間＞として見れば愚かで無謀だったかもしれないにしても、＜ボノボ人間（パパニアン）の雄＞としては至極真っ当なものだったと思う。

そういう訳で、光（ひかり）の＜子づくり＞に向けた準備が始まった。ボノボ人間（パパニアン）として見れば既に適齢期は過ぎてるのかもしれない光（ひかり）も、＜人間＞として見ればむしろ適齢期真っただ中って感じだろう。その上で念の為に治療カプセルに入り、＜全身フルメンテナンス＞を行うことになった。

「簡易健康診断じゃ健康体って判断だったが、内臓系についても詳細に確認して、若々しい状態を保つことにしよう」

「うん、分かった」

治療カプセルは、怪我や病気にだけでなく、病気の前兆の改善や、老化の抑制にも効果がある。俺やオリジナルのシモーヌが受けていた老化抑制処置に比べれば効果は気休め程度でも、例えば、妊娠適齢期を過ぎた女性の子宮や、男性の睾丸をある程度若返らせて、妊娠に適した状態に回復させるという使い方もできるらしい。

それ以外の老化抑制技術が一般的になった人間社会では既に忘れられた使い方だったが、治療用ナノマシンが一般に普及した当初には、不妊治療にも積極的に役立てられてたのだと、エレクシアが、データベースに残っていた古い資料から見付けて教えてくれた。

いよいよとなれば、設定の書き換えが必要になるものの、精子を卵子まで導き、受精の手助けをし、受精卵の着床までをもサポートできるらしい。

これ自体は、今でも実際に行われている不妊治療の手法の一つだそうだ。

ただまあ、汎用タイプとして出回っている治療用ナノマシンにはその設定が行われていないそうなので、設定の書き換えが必要なんだと。その設定方法も、エレクシアのデータベースの中にあった。医学用の予備知識として与えられていたものらしい。

今の人間社会で普通に暮らしている分には基本的には役に立つことのない＜無駄知識＞に等しいものだが、それが役立つかもしれないということだ。

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