お互いに近寄らないようにして(それが本音だよ)
ローバーに乗って立ち去る俺達を、
あいつを死なせずに済んだことに、俺は正直、ホッとしていた。こう何度も顔を合わせてると、友好的とは言えなくてもそれなりに情も移るからな。
俺達が現れなくなれば、あいつは平穏に暮らしてくれるだろうか。
もっとも、凶暴で冷酷な肉食獣であるあいつにとっての<平穏>がどういうものかは、説明するまでもないが。
捕食対象となる生き物にとってあいつはまさに悪魔のような存在だろう。俺だって、エレクシアの護衛がなければ、自分の身を守る為に容赦なく自動小銃やライフルを使って<排除>してただろう。
でも、だからこそ命を疎かにしたくはないと今は思う。自分達の命が他の命の上に成り立ってるんだってことを。自分の命を疎かにするということは、自分に連なる、自分の糧となってくれたすべての命を疎かにするのと同じなんだって、素直に思える。
これは決して綺麗事じゃない。自分が生きていて自分の命を大切だと主張したいなら認めなきゃいけない厳然たる事実だと思う。もし他の命を蔑ろにするというのなら、自分の命も同じように蔑ろにされることを覚悟しなきゃいけないとも思う。自分ばかりが優遇されることを、世界は決して認めてくれない。
どんなに強大な力を持っていても、死は必ず訪れるもんだし。
人間も、その辺りをわきまえてゆっくりと拡大を続けるようにしたからこそ、ここまで生き延びられたのかもしれない。それでもいずれは種としての限界を迎えるかもしれないが、少なくとも自滅するような真似はしたくないもんだ。
なんて、こんなところでそれを言っても意味ないが。
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