それもこれも(お前達がいてくれたから)

人間は本当にしょうがない生き物だと思わされつつも、それでも過去から教訓を得て改めていってる部分もある。一つの惑星に住むのは十億人を上限の目安とし、原則としてはその惑星の資源のみで自活を図り、無理なく生きていくという形を目指そうとはしてるんだ。


実際、多くの惑星ではそれで上手くいってるとも聞く。


一部にはいまだにごたごたしてるところもあったりするものの、だからといってそれが人間の世界全体に波及することもない。惑星同士が何光年、何十光年、何百光年と離れてるという物理的な距離が、それぞれの間で何かトラブルがあったとしても、直接衝突するという選択を取る際の心理的な枷にもなってるようだ。


ハイパードライブのおかげで、海外渡航程度の感覚で他の惑星に行けるとはいいつつ、ハイパードライブは特殊な重力振を発生させる為に探知が容易で、しかも、それを技術的に誤魔化そうにもその仕組み上無理という特性もあって、相手の不意を突いて戦力を差し向けるということができないというのもあるんだと。


となると、それこそ大昔の、お互いに姿を晒しながら合戦の場所に赴き、互いに名乗りを上げて戦うというような、この時代の感覚からするともはや<劇>のような戦い方しかできないらしい。


もしくは、定期輸送船に少数の戦力を隠して運び、テロのような形で挑むかという感じだな。


もっともそれすら、


『守るべきは人間』


という根本的な概念を持ち、人間が掲げる特定の思想信条や教義や大義には一切肩入れせず、人間に対して徹底的に中立的な立場を貫くAIが見逃しちゃくれないので、攻撃の準備をしてる段階で相手側にそれを通告されてしまうけどな。


そう、攻め込もうとしてる側が使ってるAIが、攻め込まれそうになってる側にバラすんだ。


いくらそれぞれが独立して自治を行い、独自の憲法や法律を掲げてても、多少なりとも交流しようと思えば批准しなけりゃならない条例や条約等はある訳で、その中に、AIの開発と製造に関する厳しい条項があるんだ。その一つが、


『複数の、異なる経済圏で開発されたAIを組み合わせることで一つのAIを作る』


というものだった。


これは、他の惑星と対立してる惑星が独自に、


<自分達の命令だけを無条件に聞き入れ、他者を攻撃することに利用されるAI>


を作れたりしないようにという<くさび>でもある。


で、もし、どこかの惑星が、自分達にだけ都合のいいAIを作っても、人間の世界のほぼ全体に広まった、


<中立的な立場を貫くAI>


によって総スカンを食らい、ネットワーク上からも締め出されて一切情報が入ってこない、目も耳も塞がれた状態になってしまうんだとか。


だいたいからして、以前にも触れたが、そんなAIを作ろうとしてる段階でバレてしまうというのもある。


わざわざそういう不利な状態で戦いを挑む物好きは、今の人間の世界じゃそれこそ、


『自爆上等!』


のイカレたテロリストくらいのものだからなあ。


しかも、


<どんなに真面目に働いても今日の飯すら手に入らないほどの困窮>


とも、


<苦しい胸の内に誰も耳を傾けてくれない孤立>


ともほぼ無縁な現状で、テロに走るほど追い詰められる人間も滅多にいないんだ。


これも、<人間にとっての良き隣人>としてAIが存在してくれてるからだろうな。


だから今のテロリストの殆どは、


『AIそのものを毛嫌いして、AIに支配された今の世界を破壊したい』


奴らなんだとか。


でも、おかしいよな。


『人間がAIに支配されてて奴隷のように飼い慣らされて道具のように使われているのが許せない』


とか言いながら、自分達は、


『同じ考えを持つ仲間を道具のように使って自爆攻撃させる』


んだぜ? 酷い自己矛盾もあったもんだ。


そう言う俺も、メイトギアを毛嫌いして、妹のことで精神的に追い詰められながら、自分からメイトギアの世話になるのを拒絶してさらに心を病んでいったんだから、人のことは言えないんだけどな。


そんな俺が、この惑星に来て、じん達に出逢って、一緒に暮らして、満たされるものを感じて、<幸せ>だと思えるようになったんだ。


しかも、妹を亡くした時のような、


『喪失感と一緒に解放された感じもあってその自己矛盾が許せなくてまた苦しむ』


ということは、今回はなかった。


それもこれもお前達がいてくれたからなんだな……


いつもと変わらない様子の<家族>を見ながら、俺は胸があたたかくなるのを感じていたのだった。


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