例外中の例外(可能性だけはあったが)

人間に似ていながら、ボノボ人間パパニアンと行動を共にし、樹上を移動する…?


そこまで聞いて、俺とシモーヌはハッとなった。


「まさか…?」


「いえ、でも、その可能性は十分にありました。今まで実例が確認されなかっただけです」


俺達が思い付いたこと。それを証明するように、<それ>は現れた。


自動小銃を構えたひかりと、身構えたあかりの前に現れた者。


「人間……じゃない。ボノボ人間パパニアン、か……?」


ひかり達を監視するかのように三十メートルほど離れた樹上から覗く六つの影。そのうちの五つは見慣れた、ひそか達と同じ白い体毛に覆われた紛れもないボノボ人間パパニアンだったが、残る一つは、完全に人間の姿をしていた。枝葉に隠れてはいるが、おそらくは間違いなく全裸の、<中学生くらいの少年>。


可能性だけはあった。


ひそかひかりを我が子と認識できずに育児放棄してしまったが、殆どの事例ではそうやって母親に見捨てられて命を落とす筈だったが、中には見捨てられることなく育てられて生き延びる場合もあるとは思われてきた。


「例外中の例外ですね……」


学者としての興味か、シモーヌも食い入るようにタブレットに見入ってる。タブレットを操作して、画像を拡大、少年の姿を大写しにした。


あどけなさが残り、決して垢抜けてはいないが凛々しいと言って問題ないであろう精悍な顔つき。枝葉の陰から僅かに覗く部分からだけでも分かるがっちりとした筋肉質な体。


「割と、カッコいいですね…」


思わず呟いたシモーヌに、俺も、


「確かに…」


とつい応えてしまっていた。


いやいや、そうじゃなくて……!


ボノボ人間パパニアンは基本的に好奇心旺盛で、見慣れないものがあると確かめようとして近寄ってくることがある。俺がここで遭難したばかりの頃、ひそかのいた群れがちょくちょく覗きに来てたし、今も、ほまれのいる群れの子供達が少し離れたところから俺達を見ていたりもする。まあ、カマキリ人間マンティアンじんタカ人間アクシーズようがいるからあまり近寄ってはこないけどな。


たぶん、自分達の縄張りに見慣れないものが入り込んできたから確認しに来た<斥候>と言ったところだろう。


自分達以外の<仲間>とも言える<若い男>の出現に、ひかりあかりも僅かに目を見開いて口が半開きになって、動揺した表情も見せた。だがすぐに落ち着きを取り戻し、警戒する。


ボノボ人間パパニアンなら普通はいきなり襲い掛かってきたりはしないだろう。おそらく好奇心半分で、自分達にとって危険がないかを確認しに来ただけだと思う。


だが、まさかの出逢いに俺も困惑せずにはいられなかったのだった。


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