森殺し(フォレストバスター)

「家じゃないところでご飯食べるのって、すっごいね♡」


果たして何が『すっごい』のかはよく分からないが、おそらく『すごく楽しい』という意味だろうなとは思う。何しろ満面の笑みを浮かべてるし。


楽しめてるのなら何よりだ。


しかも、そんなあかりを見るのが嬉しいのか、ひかりの視線もどこか柔らかいものになっている。


と、弁当を食べ切ったその時、あかりの前を何かがよぎった。瞬間、反射的に手が動いてそれを捕える。バッタに似た虫だった。すると、躊躇うことなく口に放り込み、ムシャムシャと食べてしまった。


食後のデザートということだろうか。


「この虫好き。美味しいよね」


思わぬ<収穫>に、あかりはますますご機嫌だ。


昼食を終えてしばらく休憩を取ればいいのに、あかりはそわそわと落ち着かない。


例の、水がたっぷりと出てくる蔓を切ってそこから流れ出てくる水をごくごくと飲むひかりは、正反対に落ち着いたものだ。


ちなみに、この蔓は、繁殖力が非常に強く、しかも放っておくと巻きついた木を絞め殺すかのように枯らしてしまうようだ。そしてシミュレーションの結果、完全に放置していると森全体を覆い尽くして殆どの木を枯らしてしまい、やがて自らも支えになる木を失って枯れてしまうという性質を持っているらしかった。で、付けた仮称が<森殺しフォレストバスター>。実はこうやって適度に切ってやることでバランスが取れていると思われる。


それが、動物に次々と切られてしまうので高い繁殖力を得たのか、それとも元々高い繁殖力を持っていてあちらこちらにあるのでそれに動物達が目を付けたのかは定かじゃないが、いずれにせよ上手く成り立ってるんだから面白い。


あと、慣れると分かるんだがこの蔓から出る水、僅かに甘みがある。だからただの蒸留水よりも美味かったりするからひかりも普段はこちらばかり飲んでいる。


ただし、どうしても多少の雑菌は紛れ込んでいるので、タンクなどに溜めて保存するのには向いてない。殺菌する為に加熱してしまうとあの独特の甘さが消えてしまって意味がないし。


で、念の為にいつも飲料水のタンクを持って行ってるものの現地でこうやって水を確保するから使うことが殆どなかったりする。


すると、ひかりが突然、着ていたものを脱ぎ始めた。それをイレーネに預け、新たに蔓を切ってシャワー代わりに水浴びをする。これもいつものことだ。俺がイレーネのカメラを通じて見ていることを知っていてもまったく気にしない。


と、


「私も!」


と言ってあかりも服を脱ぎ、同じようにして水浴びを始めたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る