感謝(いやまったく)
セシリアによって収容されたイレーネに、俺はまず、
「ありがとう」
と声を掛けた。そう言うしかできなかった。なのにイレーネは平然と、
「いえ、これが役目ですから」
なんて、本当にあっさりしたものだ。もっとも、たとえ俺がここで感謝の言葉なんか掛けなくても彼女は気もしないだろうけどな。
それでも、俺は「ありがとう」と言いたかった。
シモーヌなんて、うっすらと涙ぐんでたし。
彼女にとって
なんにせよ、イレーネはローバーの荷室部分に横になって休み、目を瞑って静かにゆられる姿が、ローバー内に待機していたドローンのカメラに捉えられていた。それはまるで、疲れ果てて寝ているようにも見えたのだった。
ローバーに運ばれてコーネリアス号にまで戻ってくると、セシリアが、まずイレーネの体にこびりついた血と泥を、カーゴルームの洗浄スペースで洗い流す。さすがに酷い有り様で、そのままメンテナンスカプセルに入れるとフィルターが目詰まりしたりという可能性があって具合が悪いからな。と同時に、壊れてしまった義手と義足の残った部分を取り外し、再資源化用のカゴに入れる。
その様子も、コーネリアス号のカメラで映し出されてたんだが、正直、まるで死体でも洗ってるように見えたというのが偽らざるところだ。それからイレーネを洗い終えたセシリアが彼女をメンテナンスカプセルまで<お姫様だっこ>で運び、メンテナンスを受けさせている間に、もし壊れたとき用にとストックされてた義手と義足を用意する。と同時に、新しく設計された義手と義足の制作にも取り掛かった。
資材だけ用意しておけば、あとはコーネリアス号のAIが、これまでイレーネが蓄積したデータを基に調整して、形にしてくれる。コーネリアス号の工作室の機能もさらに回復してきていることでそれが可能になった。そうすれば次に来た時には、今のものよりは少しだけマシになった義手と義足が使えるという訳だ。
さすがに厳しい戦闘の後だった為、イレーネのメンテナンスは時間を要した。なので、メンテナンスの進み具合を基に推測すると、二人がこっちに帰ってくるのは昼頃になってしまうだろうと予測された。
だから俺もシモーヌも、後はセシリアに任せて休ませてもらうことにする。
だがその前にもう一度だけ、イレーネに向けて、
「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」
と声を掛けたのだった。
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