ママの味

まっく

義母が来る

 今日もまたやって来るかもしれないと思うと、本当に憂鬱な気分になる。


 そんな事を思いながら、小野麻梛おのまなは、昼食の冷凍ピラフをレンジに掛けていた。


 夫のたけるを送り出したら、洗濯機を回して、朝食の後片付け。

 今日は天気がいいからと、洗濯物と一緒に布団も干して、部屋の掃除をする。それが終われば、今度は風呂とトイレの掃除だ。

 それらを全てこなして、いつも大体昼過ぎになる。


 ここで、やっと一息。


 だから、自分の為に作る昼食は、どうしても手抜きになってしまう。当然のように、この日もそうだった。


 ここに引っ越してくる前までは、適当に手を抜きつつやっていた。だけど、今はそうはいかない。

 昼食が終わってから、夕食の買い物に出掛けるまでの、唯一と言えるリラックスタイムも、あの人の来訪によって壊されてしまう。

 たとえ来なくても、いつ来るか、いつ来るかと気が気ではないのだから、結局、神経をすり減らす事に変わりはなかった。麻梛は、ここの所ずっとそんな日々を送っていた。


 午後の二時を半分ほど過ぎた頃、玄関から鍵の開く音が聞こえた。


「来た」


思わず口から零れてしまう。


 鍵が開く音。

 麻梛はその音が大好きだった。

 尊の帰りを告げる音だったから。

 幸せを運ぶ音だったから。


 だけど今は違う。


「麻梛さーん。いらっしゃる?」


 粘着質なのに高音で早口。それが尊の母親、奈美子なみこの喋り方の特徴だった。


「はーい。お義母さんいらっしゃい」


 そう言いながら、麻梛は玄関まで出迎えて、スリッパを出す。

 顔を上げると、笑顔で立っている義母、奈美子の姿があった。

 麻梛は、その笑顔と銀縁眼鏡が貼り付いた顔を見る度に喉を掻き毟りたくなる。

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