拡散する種。

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拡散する種




 目覚ましが鳴った。

 長期睡眠装置の強制終了アラームが鳴るということは、この艦に緊急事態が迫っているということである。

 それも、こんな役立たずのお情け収容者を叩き起こすくらいだから、相当に切羽詰まった事態であるはずだ……。



 さっきまでのそんな自分が拍子抜けするほどに、辺りは静かだった。

 艦内を移動する間も感じてはいたが、この艦そのものに何かが起きたような状況ではないらしい。

 船艦の舳先から飛び出した艦橋に集められた者たちは、目覚めの挨拶もそこそこに艦外を映す大画面へと目を向けた。



 艦橋の前方スクリーンに瞬く星々が映る。暗黒を漂う、無数の宇宙ごみと共に。



 それが何かとすぐに気付いたのは、ここにいる半数だった。気付いた者の九割は息を呑んで口をつぐみ、残った一人が思わず叫んだ。


「先発艦が!」


 気付いても言い出せなかったうちの一人に入る自分は、やはりこの強制覚醒が非常事態であることを認めるしかなかった。

 それも、かなり悪い。

 先発艦がそこに乗せていた数千人余りと共に宇宙の藻屑と化した理由を、早急に調べなくてはならないだろう。何かの事故なのか、何者かの攻撃なのか。原因をすぐにでも突き止めなくては同じ航路を自動操行しているこの艦も、同じ目に遭う可能性は高い。



 皆の意見は一致していた。異論がある者がいるはずはない。

 非常時に叩き起こされる者は、事態収束を任せられる人員から選ばれる。性格、能力、身体的特徴その他もろもろを知り尽くした人工知能が選ぶ者たちに共通しているのは、このまま死んでも良いとは思っていないということだ。



 ただし、自分だけ生き残れば良いという考えの者は論外である。

 それから、自分なら死んでも良いという者も結構な確率で弾かれる。

 だが今回に限っては、二つ目の項目が選別の条件から弾かれたようだ。



 先発艦が目指した先へ探査に行くのは、自分と決まっていた。



 他数名、艦外探査に赴く者たちは、無残な姿を晒す先発艦の調査にあたる。移住者たちを乗せていた物の残骸の中に入り、手がかりを求めるその調査は、それはそれで辛いものになるだろう。

 だったらまだ小さな探査機で一人、宇宙に放り出される方が良い。人工知能は、こういった考え方をする者を的確に見抜いてくれる。




 探査機の格納庫、搬出口へ集まった探査員たちが、先に出発するこちらを見送る。話しかけて来る者はいなかった。

 さすがに「繁殖を拒否されたんですか」と大っぴらに聞く者はいない。


 この艦に乗り込む者の大前提が、移住した先の星や居住地用人工衛星での人類繁栄を目的にして、それを了承している。

 出発時のごたごたで転がり込んでしまった自分は強制される立場にないから、その目的には不参加を選んだ。その分こうして、やれることがある。


 探査機に片足を突っ込んだところで探査員が一人、こちらへ歩み寄るのが見えた。何か話しかけたそうに口を開き、けれど立ち止まるその人は、自分と同じ年くらいだと思われる。


 そちらへうなずき、大丈夫と無言で伝える。


 何が起き、何が起こるのかを突き止め、それを残った彼彼女らに伝えるまでは、どんなにそうなる確率が高かろうとも死ぬつもりはなかった。




 涙型の探査機は、搬出口から送り出された。

 しばし、その余力で進み、艦から幾らか離れると粒子エンジンが点火した。涙と違うのは細くなった方を前にして、上も下もない宇宙へ落ちてゆくことだ。


 ここまでは自動で動く。両手の間の小さなモニターに先発艦の航路が示され、探査機はそれをたどった。左右の操縦桿を動かさずにいれば、勝手に航路を進んで行く。

 速度の調整は操縦桿を倒すか引くかするだけだ。船外の様子は前方の円窓からも確認出来るが、ゴーグルに映る全方位の映像で見る。

 宇宙の映像の中に、半透明で探査機船内が見える。そこを無視すれば文字通り、身ひとつで宇宙に放り出される感覚になった。



 速度を上げる。

 先発艦の残骸を避ける位置へ送り出されてはいるが、細かな塵が防護膜に当たり、爆ぜて光るのが見えた。真空に遮られ、音は何もしない。

 移住艦の遺骸と、地球を出てから寝床にしてきた家が後ろへ離れていく。ぐんぐんと遠くなる。清々しいくらいにエンジンは好調だ。



 近付いて来るのは岩のかたまり。探査機よりも遥かに大きなものもある。無数の岩と石。小惑星帯なのだろうか。

 中へ入るのは危ないが、前方を完全に覆われていては逃げ場がない。幸いなことに、無数の岩は中央から外へと向かって放射線状に広がって動いている。中心部分は岩の密度が低く、通り抜け出来そうに見えた。

 そこを目指す。航路は左斜めへ大きくずれていく。先発艦は、この小惑星帯の中心部へ横っ腹を向け、進んでいたはずだ。




 探査機の倍ほどある岩を横目に見て、中心部へ踏み込んだ時だった。

 音にするならば「ぶおっ」と言い表すような感覚で、岩の後ろから船影が姿を見せる。


 戦闘機だ。


 昔見た映像に出て来るような鋭利な機体は、艶のない腹側を反転させ、灰と泥をぶちまけたような色合いをした背中をこちらへ向けた。

 機体から飛び出した背びれの上に立つ銃身が、探査機の真っ正面にくる。

 操縦桿を左右にひねる。探査機は斜めに回転し、戦闘機の右上に吹っ飛ぶ。前方に、さらに大きな岩。右の操縦桿を引っ張り、機を立て直そうとするが、腹から岩へと突っ込んでいく。


 空気抵抗のない宇宙で無茶な動きをすれば、こうなる。機体制御が間に合わない。このままでは岩に激突する。それより早くエンジンを吹かして、岩のおもてを滑るように抜ける。

 そのまま小惑星を回り込み、さっきの戦闘機のように岩と石の合間に身を隠そうとしたが、駄目だった。



 探査機は揺さぶられ、中心部へと引っ張り戻される。ゴーグルの映像に、白黒の線が交差する。



 網だ。蜘蛛の網、漁網の中。実に原祖的な方法で捕らえられた探査機は、いきの良い魚よろしく跳ね回る。

 エンジンの出力を最低に下げる。このまま暴れ続けて網を破る選択肢もあるが、この、岩がごろごろした場所で動き回ると無傷で済まない。戦闘機も右に左にと機体を揺すり、こちらの動きを相殺し、制しようとしていた。


 岩石に突っ込んでいく探査機を捕獲するなど、つられて向こうも岩に激突する怖れがあったはずだが、無茶なことをしてくれる。

 何のつもりかは知らないが一緒に死にかけた相手は、こちらが大人しくなると静かになった。



 船艦からの通信を知らせる青いランプが映像の隅に瞬いたと同時に、中央へ、周囲の警戒を告げる赤文字が点滅する。

 先ほどこれが点かなかったのは相手が岩に張り付いて一体化していたからだが、今度のそれが大騒ぎしているのは、三機の未確認飛行物体が、こちら目掛けて突っ込んで来ているからだ。


 探査機が大きく引っ張られる。

 水揚げした獲物を入れたままの網を引っさげ、戦闘機は一気に小惑星帯を突っ切った。

 こちらへ突っ込んで来る物体に向かって。



 三機の飛行物体は一斉に機銃掃射した。

 超小型のミサイル弾だ。飛行物体の舳先に付いた電子砲より、遥かに破壊力は強い。電磁シールドの防護膜を突き破るし、着弾されれば小さな探査機など木っ端微塵だ。


 動けない探査機は弾を飛び越え、並行に隊列を組む飛行物体三機の真上を、縦方向へ回転して切り抜けた。

 尻を大きく振って網の獲物を上へと放った戦闘機は、こちらに続いて回転した。網で繋がった我々はそのままぐるぐると、引力に惹かれあった惑星と衛星のように回りながら、敵機の隊列から離れる。

 探査機内は水平装置のおかげで安定している。ここが外殻と分離していなければ、とっくに目が回っていた。



 隊列が一と二に分かれ、こちらへ旋回するのが見えた。そうしながら撃った電子砲が、まぐれにも探査機へと届く。

 寸前で戦闘機が立ち塞がった。灰に塗り潰された操縦席の覆いが吹っ飛ぶ。急転した機体はさらにひっくり返り、背中に探査機を載せるようにしながら、戦闘機は加速する。



 覆いが外れた操縦席にいた者は、酸素を必要とする存在ではなかった。

 金属の仮面を付けた、一つ目の頭。仮面でなく、それが彼らの頭部だ。



 彼らのことは見知っている。慌てて地球を後にした時に初めて、この目で見た。

 こちらを追う飛行物体も、そうだ。出発間近の移住用宇宙船艦を集団で襲ってきたのは、落花生の殻を巨大化させたような、ずんぐりとした機体。戦闘機であるのは、あれらの方だった。


 探査機を背負ったままの戦闘用でない戦闘機は、急降下を開始した。

 小惑星帯を抜けた先の白茶けた惑星と、その前に浮かぶ、黒い染みでまだら模様になった灰色の衛星へ向かって。



 逃すまいと、何発か追撃が来る。

 射程距離が長い電子砲が宇宙に線を引く。追い縋ってきた中型のミサイル弾が、別の機の電子砲に貫かれ、後方で破裂する。

 破片は高速で四散し、こちらへ降り注いだ。船外カメラが数面に渡ってやられ、眼前が半数以上、真っ白になる。


 航行不能、脱出不可の非常アラームは、目覚ましの数十倍うるさい。

 うるささで人生の終わりを覚悟して、自分は意識を失った。








 時間、無い……失敗は……起動、あと一息……息が!



 息をするが吸えない。何かが代わりに肺を通る。いや、何かが体を駆け巡る。そこら中を熱く冷たい何かが、酸素と血のように巡っている。

 開けた目はまだ白を映す。所々で黒が見え始め、それはあちこちを侵食する。体のあちこちを、何かが絶えず繋いでいる感触がある。



 いった、上手く……急ぐ……認識を……言葉にして。



 言葉。

 途切れ途切れの言葉が、自分が使っていたのとは違う言語であると認識した途端に、周囲は猛烈に騒がしくなる。装置の駆動音と側で言い合う声が、目覚めたばかりの頭にはアラーム並みにうるさい。


 頭の中もそれ以上に、めまぐるしく騒いだ。全ての情報が一気に言葉というもので接続され、あらわになっては整理される。

 集中する。眼前のものに。ゴーグル越しではない光景に。


 目の中の黒が形作られる。

 操縦席にいたのと、それより体格が不自然に低い、二つ目頭の一体。

 そちらへ伸ばす手が唐突に遮られる。透明な壁についた手は赤錆びた液体で濡れ、垂れたそれらは肌を這って内部へ浸透し、思考と同じにめまぐるしく駆けった。


 赤錆が見えたと共に、白黒の視界が急激に色を持つ。

 闇に覆われたここは白黒だった時と代わり映えしない。衛星の中枢で、重要な研究機関であるここですら、内紛で動力供給が上手くいっていないのだ。



 時間が無い。



 そう告げると彼らはすぐに動いた。

 原子機械細胞を培養、保管していた容器を開けてくれ、操縦士である彼が案内し、戦闘機もとい資源採取作業船へと先を急ぐ。

 地球産船艦の残骸回収を隠蓑に、秘密の研究目的で衛星を抜け出し戻った機は損傷が多く、宇宙へはもう出られない。それでも動力機関は、まだちゃんと動く。高度三百程度まで数分飛ぶくらいなら充分だ。



 あそこまで行ければいい。

 上に立ち、折れた背びれにつかまり、地表彼方の目的地を指差す。

 船は飛んだ。



 薄い大気でも速度による風は強い。原子機械細胞が擬態する自分の表面、人間の右腕の指の形をしたものに力を入れて、飛ばされないようにする。

 いまさら気付いたが、あちこち破れた服がまくれ上がって風になびき、脱げかけていた。

 指先で触れるとそれは瞬く間に極小の細胞に取り込まれ、着慣れたものに再構築される。男女兼用の簡素な船内着込みで、自分というものが形成されるようになった。




 何もかもが代わっていた。だが今は、何もかもを知っている。




 彼らは地球で例えるなら、蟻か蜂のようなものだ。

 母体は自らの細胞を分け与え、自由に動き回れる分身を生み出す。

 分身である子たちは母なるものの動力炉にくべる資源を探し、大地や海底、宇宙を探査し、獲物を持って巣に戻る。磨耗した細胞を新たに入れ替えてもらい、生まれ変わって再び働く。


 だが、成功して社会の規模が大きくなると綻びも生まれる。

 大きな全体を保つには、その規模と同等かそれ以上の供給源がいる。

 支えられなくなった巣は作り直さなければならない。それでも保てなくなると母は自らの複製体を作り、その都度、巣別れさせた。

 そうして彼らは、あちこちへ散らばった。



 地球も同じだ。

 異常に増えたこと、極端に減ったもの。進むほど歪みが大きくなる。

 故郷を保つため、繁栄し続けるため、人類は母なる惑星の外を目指し、広がった。


 我々はたねだ。

 それぞれのしゅを保つため、次へと繋ぐためのたね



 たんぽぽを思い出す。記憶から引っ張り出したそれは、立体映像のようにくっきりと目の前に浮かぶ。風に綿毛が吹かれて飛んでいった。


 根を下ろす場所がいる。

 日の光に代わるものを、水に代わるものを、種は欲している。


 拡散する。


 そうして、宇宙を広がる双方の種は出逢う。

 だが、それぞれは棲み分けを選んだ。



 二つは似て非なるもので、相容れないが同じでもある。

 だから互いの距離を保つ間は良かった。片方が一方的に拡散さえしなければ、そのまま互いを黙認する関係でいられた可能性はある。

 地球人類は一応の成功をみて、あちらこちらで暮らし始めた。次代へ繋ぐ速度と変化は、そちらに分がある。母はひとつでなく、大勢いた。



 ここは、ずいぶん前から歪みが酷くなっていた。

 次の場所を見付けられず、支え切れぬ分は回収と再構築がなされた。

 母体はかつて複製の中でも一二を争う強力な生産性を保持していたが、次代が不具合で起動出来ないことが続き、何代分も同じものが居座ることになった。


 労働者として生み出された分身たちも、個々が歪に形成され始めた。

 それは争いを生んだ。皆が同じでなくなったからだ。

 一方は全体の存続と今までを保つことを頑なに守り、一方は変容してしまった自身の保持のためにも回収でない新しい生き方を探した。

 人類の成功は彼らにとって、どちらの立場からでも興味深いものになった。



 存続を脅かされたと感じた方の彼らが独断で行った襲撃は、結果として人類の拡散に繋がった。最小の被害で危機を食い止めた地球は、あらゆる事態に備え、今も新天地を次々と目指している。

 強硬派の狙いは宇宙へ旅立った者に向けられた。ここへ知らずに近付いてしまった先発艦は、不運であったとしか言いようがない。



 彼らの早まった行動は、彼らにとって失敗か否か。未だ答えは出ない。答えをくれるものは、しばらく前から沈黙していた。

 始まって以来、初めて死に向かう母なるものは、ただ静観していたわけではない。可能性にかけたのだ。存続と変容、どちらでもいい。今までとは違う歪さを信じた。そこから生まれるその種には、新たに広がる力が宿るはずだ。



 ただ、彼らが自ら答えにたどり着くまで待ってはいられない。

 時間が無い。

 あの船艦には。



 向かう先。清浄化施設への動力供給が足りず、母体に還元されずに垂れ流されて、クレーターに溜まった黒い廃液の只中。超射程距離電子砲の砲塔が、鎌首をもたげて建っている。


 一度目は奇襲を狙って小惑星を貫いて放たれたそれは、今度は砕けた岩石の合間をまっすぐに、船艦へと届くだろう。

 二度目の発射が迫っている。



 顔を上げる。人間の視力を遥かに飛び越えた目が、小惑星帯の向こうに鈍く光る船影を捉える。

 それは偶然にも、芽吹いた双葉のような艦橋のせいで何かの種に見えた。地球の種がまた撃ち落とされようとしている。



 ……さん……出来ますか……応答願います……



 自分を呼ぶ声が、研究所の中、かろうじて形を保った探査機を通して、この耳に届く。


 探査機が警告を発し、消息を絶ったことは、船艦にも確認出来ているはずだ。それでも航路を大幅に変更しなかったのは小惑星帯が邪魔をして、こちらの衛星が何であるか、把握出来ていないからだと思われる。

 知らなかったからといって、蟻や蜂は巣を突かれるのを許さない。



 やることはもう決めていた。そのための準備は今、出来たところだ。



 操縦士に降りるように言う。彼は素直に飛び降りる。その両足の浮力装置が小さく光って宙に留まったのを目の端に、作業船の速度をさらに上げる。操舵は、とっくに把握しておいた。


 目の前に迫ったものと動力炉との、異常接続を解除している暇はない。

 砲身旋回の無防備な動力系統に手を加えると、狙いが上手く付けられず、砲塔下部の管制室は混乱し始める。分身たちの細胞を通じて聞こえる、彼らの警報音に似た騒ぎ声にも慣れてきた。


 作業船をさらに加速させる。一気に船首を立てて機体を浮き上がらせ、電子砲の首を狙う。ぎりぎりまで待って、船から跳んだ。




 即席ミサイルと化した作業船を突っ込ませる。起こった爆発は狙い通り、砲身の接続部を吹き飛ばす。

 一時置いて、電子砲塔はもたげた頭をぐらつかせ、首から折れて地に刺ささった。砲塔は緊急停止し、衛星中心部の動力炉との違法な接続を切り離される。



 折れた首の根元に降り立つ。

 爆破の余韻、熱と煙が足元を通り、砲塔を流れ下る。

 粉塵と機械細胞の成れの果てが波となり、廃液の湖岸へと打ち寄せる。岸辺の明かりのない建物からは、こちらを見つめる無数の瞳が光って見えた。



 これ以上の無駄な消耗をせずに済んだ。回収は、ここから始めるべきだろう。冬を越す蜜蜂のように休眠することを彼らに教えたら、その間に不要となる施設を解体することで、巣の再構築は間に合うはずだ。



 空を見上げた。

 空と言っていいものかわからない、灰に薄紅を混ぜた大気を。

 漆黒の宇宙に瞬く無数の星々の中に、成り行きで転がり込んだ、かつての家が見える。

 ひとつぶひとつぶが違う多種多様な種を乗せた地球の船は、白茶けた惑星に影を落とし、進んで行く。



 こうしていると、発着場で誘導員をしていた時が蘇った。この、見送りの時間が好きだった。

 死にかけの探査機の通信をどうにか起こして、彼彼女らに伝える。



「良い旅を」



 衛星の大気を、ひとつ吐いた。

 たんぽぽの綿毛を飛ばすように。








 おしまい


 2020年3月7日分 KAC2020第4回

 お題『拡散する種』にて執筆。







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