晝の旅・その他の旅◆side-A

深川夏眠

第1話「相客(あいきゃく)」


 ボックスシートを悠々と陣取っていたら団体客が乗り込み、隣の車両から移ってきた人が困った顔をしたので声をかけた。

「急に混んでしまいましたな、いや、これはどうも、かたじけない」

 向かいに腰掛けた男は、こちらが手にした観光案内を見て、

「湖畔のホテルへ行かれますか、あそこは幽霊が出ると評判です。いえ、恐ろしいもんじゃありません、拍子抜けするほど上品で」

 ショーに出ていたピアニストと歌手の夫婦が、死してなお仕事場に現れ、ぼやけた姿ながら見事な演奏と歌声を聴かせてくれることがあり、そんな晩は決まってステージに一番近いテーブルに彼らの息子と娘が座っていて、瞳を潤ませるとか。

「ですが、子供たち、その若い男女も、やっぱり幽霊だって話で」

 パンフレットから目を上げると、相客あいきゃくは消えていた。座席には食堂車のナプキン。豪華な料理を堪能したのだろう、赤いソースの染みが食欲をそそる残り香を放っていた。



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