第5話 ガダルカナル強襲

 空襲警報のけたたましいサイレンの音がガダルカナル島全体に鳴り響いた。

 空襲警報が鳴り止むのと同時に、海岸に設けられている監視所から「敵は戦爆連合、機数およそ百」という報告が挙げられる。

 「戦闘機隊は直ちに発進、迎撃せよ。」と第二百一航空隊司令の穂高信武大佐が言った。

 「発見された敵の位置、方位を考えると敵は空母艦載機である可能性が高い。全員、心して当たれ。」と穂高が続けて言った。

 穂高が指示を与え終わると、搭乗員たちがざわめいた。

 先月(一九四三年一月)から敵艦戦はF4F「ワイルドキャット」からF6F「ヘルキャット」に順次変更され、さらに、敵艦爆も「ドーントレス」から「ヘルダイバー」へ順次変更されており、苦戦が予想されることと、これまで敵重爆の空襲しか受けてこなかったガダルカナル島がいきなり敵の空母艦載機の空襲を受けることになったからだ。

 飛行隊長の半澤春道少佐が「かかれ!」を下令し、搭乗員たちが一斉に駐機場へと駆け出した。

 

 

 「飛行場を破壊されちまうと司令や陸軍さんに申し訳が立たんな。」と第二小隊長を務める船場貴之中尉は言った。

 昨年末から始まったガダルカナル島の陸戦は米軍優勢で進んでいるものの、現地の陸軍部隊はよく奮戦し、飛行場や高台などの重要拠点を未だに死守している。

 「しかし、俺らはいつ後方に下げられるんだ?」と船場は続けて言った。

 現在、ガダルカナルを守る戦闘機隊は船場が所属する第二百一航空隊のみであり、その二百一空も敵重爆撃機部隊との連戦で消耗し、定数の五十四機を大きく割り込んでいる。

 そんなことを考えているうちに、高度計の針が五〇〇〇メートルを指し、第二中隊の長沼直孝飛行兵曹長の機体が、激しくバンクした。 

 「来たか!」と船場は叫び、周囲の空を見渡した。



 船場機が放った二〇ミリ弾が狙い過たず、敵機の尾部を捉えるか…と思いきや、射弾はその手前で弓なりの弾道を描き、下方へと消えた。  

 「くそったれめ!」と船場は叫んだ。

 既に第二小隊の三番機は落とされており、船場機にも多数の弾痕ができていた。



 この時、多くの零戦は船場機同様苦戦していた。ヘルキャットは二機一組で零戦を追い詰めており、既に十五機以上の零戦が落とされていた。

 何機かの零戦は得意の小回り回転を活かして好射点を占め、敵機を一機、二機と落としているが、全般的な戦況は不利だ。



 「このままじゃまずいぞ」と船場が言った。そのようなことを考えているうちに、不意に背後から寒気がした。船場が振り返った瞬間、敵機の射弾が船場機を貫いた。船場の意識は常闇の中に消えていった。

 

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