第23話 安全な所は魔界しかない

 勇者の持つべき聖剣が消えていた。その代わりに、二人の聖剣が生まれ変わっていた。強敵を倒すごとに成長する剣ではあったが、圧倒的に上位の聖剣を吸収できたとは思ってはいなかった。手に取ると何となく感じることができた。新たな所有者達、勇者を殺した、のために、その二人の剣と融合してその聖剣は二つに分かれたのである。聖剣は生きている。不思議な現象があると聞いていたが、今回はこれがそうらしかった。聖剣や他の魔方具、そして、金を剥ぎ取ってから、二人は、そのまま新たな町に向かおうとした。出てきた町には、勇者のチームの生き残りが逃げているから、何があるか分からなかったからである。歩き始めてしばらくすると、駆けてくる、複数の人間の気配を感じた。用心深く彼らの前に出た。

 二人を見て、彼らは立ち止まった。二人が拾った3人の一人、アシャ、小柄なハーフエルフの若い女ハダ、聖騎士の家の三男坊の戦士セイン、そして農人上がりの戦士オルトだった。二人のチームの仲間と言えた連中だった。彼らは、昨晩から姿が、見えなくなっていた。

「無事だったか。助けに来てくれたか?」

 用心深く尋ねた。彼らは少しの間、迷っていたようだったが、突然、土下座した。

「ごめんなさい。」

 アシャは泣き出して、弁解どころではなかった。代わるようにハダが、

「勇者の命令を拒否したレコが殺されてしまって。他にも一人、いなくなっていて、もう怖くなったんです。だから、それで…逃げたんです…。」

「お前達もか。」

 何故、事前に言わなかったと思ったが、圧倒的な力の差がある二人が2人に事実を告げようとしたら確実な死が待っていたろうからと思い至って、言葉を喉で止めた。

「それは分かった。それが如何して、今ここに来た?」

 今度はセスタが問うた。

「勇者のチームの何人かが、市の参事会に駆け込んで、勇者が賞金が付いたテルシオ王子とセスタ王女に殺されたと。それで、山狩りということになって、周辺の領主も加わって、大々的に、それで…、お知らせに来たのです。」

 彼らの善意がどれ程のものか疑ったが、テルシオは荷袋から、金貨の入った袋を取り出すと、彼らの方に放り投げた。

「礼をいう。これを持って、安全な所まで逃げろ。」

 テルシオはそう言って、背向けた。セスタもそれに従った。

「どこに?」

「魔界だ。もうそこしかあるまい。さらばだ。」

「レカは?」

「知らぬ。我々を救おうとして殺されたのかもな。」   

 セスタは嘘を言った。二人は元来た道を戻っていった。4人は悲しそうな声をだしたが、襲おうとも、追おうともしなかった。

 魔界に入ると雨が降り出した。木の下で、枝に毛皮を張って雨よけにして、体をくっつけて座った。

「もう少し寄っても、我はかまわないぞ。」

「魔界が、今では安住の地というのは皮肉だな。」

 テルシオの声は、自虐的になっていた。セスタの体臭を感じた。不快ではないが、本来なら清められるように体を洗い、香料を振りかけと、香しい香りを振りまいているはずだった、王宮で。“本当は、彼女が殺されることはなかったのかもしれない。彼女が欲しくて、彼女の不安を利用したのではないか。その挙げ句がこれだ。”思わず、

「ごめん。」

と口から出た。

「いや、我のせいだ。」

 セスタは、彼を自分のために利用したのではないかという思いからだった。

 互いの言葉を否定しようとしたが、互いの顔を見た瞬間、そのまま唇を重ねていた。今までも何度も口づけをした、舌を絡ませあったことだってある。しかし、今度は貪るように何度も何度も繰り返えし、次第に抱く力も強くなり、お互いの身に着けているものをはずし、体を弄り始めるのを止められなくなった。喘ぐセスタの体に、テルシオの舌が這い回った。そして、向かい合いながら、セスタが上になり、あるいは土下座のように上半身が、下半身を高々あげたセスタを後ろからテルシオがと体位を変えながら、二人は激しく、ひたすら動き、喘ぎ声を上げるセスタに、テルシオが何度も呼びかけ、何度も何度も体を麻痺させたようになり、また、何度もそれを繰り返した。彼らが激しい息をしながら、仰向けになったテルシオの上にうつ伏せになったセスタが抱かれて動かなくなった時には、雨は止んでいた。

 テルシオがセスタの背中を優しくさすっていると、

「本当にお前は好色漢だな。何度も何度も、我は本当に死ぬかと思ったぞ。」

 甘える口調で、彼を詰った。彼は苦笑いを浮かべながら、

「セスタ姫が、おねだりをするから応じたのだけれどもな。本当に初めてとは思えないほど積極的で、情熱的で、扇情的だったな。」

 セスタは、テルシオがの最後の言葉にはっとしたように反応した。

「私は、我は、本当に初めてだったのだぞ。他の男などとは決して…。」

 意味の判らなかったテルシオだが、セスタが、

「あれがなかったが…本当なのだ…。」

と言ったところで気が付いて、優しく、かつ強く彼女を抱き締めて、

「馬にまたがり、戦場で獅子奮迅の活躍をした戦姫様なら、とっくの昔になくなっているさ。」

 もっと優しく言え、と言いたげだったが、気が楽になったのか、

「我はそんなに良かったか?」

 すがりつきながら尋ねた。

「ああ、他の男前に絶対渡せないと思ったくらいよかった。」

 満足そうな表情で見上げながらも、

「我だから、よかったのだぞ、それを忘れるな!」

と釘を刺した。

「私は如何だった?」

 セスタは真っ赤になっており、顔を少し背けて、

「もう、離れたくないと思ったぞ。」

 二人は、きつく抱き合った。

「これから如何するか?」

 テルシオが呟くと、しばらくは黙っていたセスタだったが、

「私達で魔王を倒そう。私達だけで。」

 思わずテルシオは、セスタをのぞき込んだ。

「勇者の聖剣があるし、それに準じた魔具もある。さすがに、魔王を倒した勇者を、誰も粗末にはできまい。」

 セスタが決して絶望で自暴自棄になっているわけではないことが分かった。また、聖剣の力を過信しているわけでもなさそうだった。

「僅かな可能性でもあれば、進むという訳か。」

と彼が口にだすと、勢いよく彼女は首を縦に振った。それなら、悪くはないと思った。

「そうだな。生きるために、前に進もう。」

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