リアル俺TUEEEが異世界移転したら俺YOEEEになっちゃった件
Man 2.5
1.同窓会と召喚とナファリム
1-1
俺、
現役で日本トップの名門大学を合格し、1年間の米国への留学を経て、5年目で卒業。学生時代はサッカー部に属し、チームを全国大会優勝へと導いた超カリスマキャプテン。大学時代にボランティア活動、インターンシップも沢山やってきた。
これらを履歴書に書いておけば、大体の企業から面接のオファーが来る。
「へへ、ちょろいもんさ」心の中でにんまりとほくそ笑む俺。
そして、俺は今某大手商社で勤めている。まだ30歳もいかないのに、年収1000万届きそう。最近、貯金ばっかり増える。
この世界は、2種類の人間しかいない。頭いい奴と頭悪い奴だ。頭いい奴の中には、自惚れて努力しない奴がいる。頭悪い奴の中には、がむしゃらに努力する奴もいる。そいつらも、結局は頭悪い。頭いい奴は、努力の必要性と効率的な努力の仕方を知っている。
俺は、常に頭いい奴らの世界に居る。物心がついたときから、両親による英才教育をたんまりと受けてきた。俺の父は病院の院長、俺の母親は実業家の娘。そんな二人から生まれた俺は、文字通りの秀才だ。
それに、見た目だってイケてるぜ。引き締まった筋肉質な体格に、整った顔立ち、サバサバした黒髪。そして自信に満ちた両目。そう、この目こそ俺の最大なチャームポイントだよ。流し目で一瞥すれば女の誰もが振り向いてくれる、ブラックダイヤモンド! なんてね。
彼女? 日本全国に居る。関東地方に一人、関西地方に一人。北海島と九州、日本列島の両端にも一人ずつ。
なに? 四股掛けててバレないのかって? 大丈夫大丈夫。女という生き物は、俺みたいな強くて優秀な存在に弱いんだ。何股掛けようが、無条件で惚れてくれるんだよ。というか、振っても振っても寄ってきてやがる。
もちろん、本命の結婚相手は一人に絞っている。父親の知人で社長をしている人の一人娘だ。いま婚約をしている。顔良し、家柄良し、性格も頭もまあまあ良し。
何より、スリーサイズ良し!
「へへ、これがむしろ一番大事」俺がまたにんまりする。
東大卒だろうが中卒だろうが、IQ180だろうがIQ80だろうが、男の願望はすなわち普遍的摂理、逆らえぬ本能。
結婚は取引だ。俺は彼女に金と家とステータスを提供し、彼女は俺に無料で体を差し上げる。どうだ、高い買い物だとは思わないか。別に、高級腕時計や高級車に金をつぎ込むのと一緒だろう。
ああ、俺の人生はいつも順風満帆。神様はすべて俺の望み通りにしてくれる。俺は頭いい。俺は金持ち。俺はかっこいい。俺は優秀。俺は、TUEEEEEEEEE!
――
ああ、今週末に、久しぶりに中学校の同窓会があるんだった。
そう思い出した俺。元同級生たちの恨めしそうな顔が眺めたいなあ。きっとみんな、俺が羨ましくてしようがないだろう。
ああ、人間って何て単純。見栄という束の間の自己満足に浸って生きている。なんの生産性もないことだと俺は分かりきっている。でも俺は、自己満足の奴隷だ。なぜなら、人から羨ましがれ、嫉妬されるのはいい気味だからだ。
俺はお気に入りの洋服を身に着け、意気揚々と同窓会の会場に踏み込んだ。皆の視線が俺に集まっていくのが分かる。俺の胸が高鳴り、顔にさり気ない微笑みが浮かぶ。
(俺のキラースマイルをとくと見よ!)
と、俺は心の底で吶喊する。
会場の端に居る彼女を目にしたとき、俺の微笑みは凍り付いた。
C組の山口里奈。長い前髪で顔を隠し、根暗そうな虐められっ子だった女。
なぜだ、なぜ彼女がここに居る?!
山口里奈は、ワインレッドのドレスを着て、薄化粧している。すっかり大人びいたなあと、俺はひっそりと感心する。
いいや、そんな場合じゃない! 彼女は、ここに居てはいけないんだ。なぜなら……
俺の心が恐怖ではち切れそうになる。
山口里奈は、中3の時に跳び下り自殺したはず……
俺は目を瞑り、数回頭を振る。
幻覚だ。これは幻覚。
再び目を開ける。山口里奈が、そこに居る。
思わず叫び出したくなった俺。山口里奈が微笑み、俺に歩み寄ってくる。不思議なことに、会場にいる他の人たちは、誰も俺たちのことを気にしていない。
しなやかな物腰に、とろけるような優しい笑顔。長い睫毛の下で煌く黒目勝ちな瞳。とてもお化けとは思えない。
清楚な可愛さに、俺は恐怖を忘れてうっとりしてしまう。彼女は、本当に山口里奈か。そういえば、彼女が校舎の屋上から飛び降りあと、遺体を目にした人は誰一人いなかった。ひょっとしたら……
「お久しぶり、俊明くん」
凛とした声が耳の奥をこだます。俺は慌てて返事しようと口を開いた。顎が張り付いたように動かない。
「ひっ、久しぶり」
どぎまぎする俺に、彼女はクスクスと笑った。
「驚くよね。私、死んでないの」
「あ、その……そういう意味じゃなくて、あ、でもよかった、その……会えて……」
彼女がまたクスクスと笑う。そして顔を近づけ、俺の耳元でそっと呟く。
「理由を知りたい?」
温かく、ほのかに香る吐息に、体中の筋肉が柔らかくなっていくような感覚に襲われる。
彼女は俺の手をそっと、握る。
「ちょっと来て」
俺は、磁石に吸い付けられるように彼女についていった。その瞬間から、俺の勝ち誇った人生が360度の大回転をした。
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