リアル俺TUEEEが異世界移転したら俺YOEEEになっちゃった件

無名 随筆

1.同窓会と召喚とナファリム

1-1

 俺、早川俊明はやかわしゅんめい。28歳。特技はいっぱい。肩書もいっぱい。


 現役で日本トップの名門大学を合格し、1年間の米国への留学を経て、5年目で卒業。学生時代はサッカー部に属し、チームを全国大会優勝へと導いた超カリスマキャプテン。大学時代にボランティア活動、インターンシップも沢山やってきた。


 これらを履歴書に書いておけば、大体の企業から面接のオファーが来る。

「へへ、ちょろいもんさ」心の中でにんまりとほくそ笑む俺。


 そして、俺は今某大手商社で勤めている。まだ30歳もいかないのに、年収1000万届きそう。最近、貯金ばっかり増える。


 この世界は、2種類の人間しかいない。頭いい奴と頭悪い奴だ。頭いい奴の中には、自惚れて努力しない奴がいる。頭悪い奴の中には、がむしゃらに努力する奴もいる。そいつらも、結局は頭悪い。頭いい奴は、努力の必要性と効率的な努力の仕方を知っている。

 

 俺は、常に頭いい奴らの世界に居る。物心がついたときから、両親による英才教育をたんまりと受けてきた。俺の父は病院の院長、俺の母親は実業家の娘。そんな二人から生まれた俺は、文字通りの秀才だ。


 それに、見た目だってイケてるぜ。引き締まった筋肉質な体格に、整った顔立ち、サバサバした黒髪。そして自信に満ちた両目。そう、この目こそ俺の最大なチャームポイントだよ。流し目で一瞥すれば女の誰もが振り向いてくれる、ブラックダイヤモンド! なんてね。

 

 彼女? 日本全国に居る。関東地方に一人、関西地方に一人。北海島と九州、日本列島の両端にも一人ずつ。

 なに? 四股掛けててバレないのかって? 大丈夫大丈夫。女という生き物は、俺みたいな強くて優秀な存在に弱いんだ。何股掛けようが、無条件で惚れてくれるんだよ。というか、振っても振っても寄ってきてやがる。


 もちろん、本命の結婚相手は一人に絞っている。父親の知人で社長をしている人の一人娘だ。いま婚約をしている。顔良し、家柄良し、性格も頭もまあまあ良し。


 何より、スリーサイズ良し!


「へへ、これがむしろ一番大事」俺がまたにんまりする。


 東大卒だろうが中卒だろうが、IQ180だろうがIQ80だろうが、男の願望はすなわち普遍的摂理、逆らえぬ本能。 


 結婚は取引だ。俺は彼女に金と家とステータスを提供し、彼女は俺に無料で体を差し上げる。どうだ、高い買い物だとは思わないか。別に、高級腕時計や高級車に金をつぎ込むのと一緒だろう。


 ああ、俺の人生はいつも順風満帆。神様はすべて俺の望み通りにしてくれる。俺は頭いい。俺は金持ち。俺はかっこいい。俺は優秀。俺は、TUEEEEEEEEE!


――

 ああ、今週末に、久しぶりに中学校の同窓会があるんだった。


 そう思い出した俺。元同級生たちの恨めしそうな顔が眺めたいなあ。きっとみんな、俺が羨ましくてしようがないだろう。


 ああ、人間って何て単純。見栄という束の間の自己満足に浸って生きている。なんの生産性もないことだと俺は分かりきっている。でも俺は、自己満足の奴隷だ。なぜなら、人から羨ましがれ、嫉妬されるのはいい気味だからだ。



 俺はお気に入りの洋服を身に着け、意気揚々と同窓会の会場に踏み込んだ。皆の視線が俺に集まっていくのが分かる。俺の胸が高鳴り、顔にさり気ない微笑みが浮かぶ。


(俺のキラースマイルをとくと見よ!)


 と、俺は心の底で吶喊する。




 会場の端に居る彼女を目にしたとき、俺の微笑みは凍り付いた。

 C組の山口里奈。長い前髪で顔を隠し、根暗そうな虐められっ子だった女。


 なぜだ、なぜ彼女がここに居る?!


 山口里奈は、ワインレッドのドレスを着て、薄化粧している。すっかり大人びいたなあと、俺はひっそりと感心する。

 いいや、そんな場合じゃない! 彼女は、ここに居てはいけないんだ。なぜなら……

 俺の心が恐怖ではち切れそうになる。


 山口里奈は、中3の時に跳び下り自殺したはず……


 俺は目を瞑り、数回頭を振る。


 幻覚だ。これは幻覚。


 再び目を開ける。山口里奈が、そこに居る。


 思わず叫び出したくなった俺。山口里奈が微笑み、俺に歩み寄ってくる。不思議なことに、会場にいる他の人たちは、誰も俺たちのことを気にしていない。


 しなやかな物腰に、とろけるような優しい笑顔。長い睫毛の下で煌く黒目勝ちな瞳。とてもお化けとは思えない。

 清楚な可愛さに、俺は恐怖を忘れてうっとりしてしまう。彼女は、本当に山口里奈か。そういえば、彼女が校舎の屋上から飛び降りあと、遺体を目にした人は誰一人いなかった。ひょっとしたら……


「お久しぶり、俊明くん」


 凛とした声が耳の奥をこだます。俺は慌てて返事しようと口を開いた。顎が張り付いたように動かない。


「ひっ、久しぶり」


 どぎまぎする俺に、彼女はクスクスと笑った。

「驚くよね。私、死んでないの」

「あ、その……そういう意味じゃなくて、あ、でもよかった、その……会えて……」

 彼女がまたクスクスと笑う。そして顔を近づけ、俺の耳元でそっと呟く。

「理由を知りたい?」

 温かく、ほのかに香る吐息に、体中の筋肉が柔らかくなっていくような感覚に襲われる。

 彼女は俺の手をそっと、握る。

「ちょっと来て」

 

 俺は、磁石に吸い付けられるように彼女についていった。その瞬間から、俺の勝ち誇った人生が360度の大回転をした。

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