第273話 飛行船完成
「飛行船が完成したという話は本当か?」
私は、飛行船が完成したという報告を聞いた後、急いでシンが飛行船を開発している工房へと向かった。
リーツ、ロセル、そして飛行船が見たいとリシア、シャーロットも同行していた。
「おお、皆様よく来てくれました!」
シンが陽気な様子で出迎えてくれた。
工房の中には1台の飛行船が置いてあった。
前回シンが作成した飛行船は小型ヨットくらいの大きさだったが、それより遥かに大きい。
中型船くらいの大きさだ。
船の上に、大きな球体が二つ乗っている。
あれで船が飛ぶ浮力を発生させているのだろうか?
こんなに大きいものが飛べるのかと、疑ってしまうくらいのサイズである。
「見ての通り完成しましたわ。定員は十五名。高度もかなり高くまで飛べて、小さい山なら越えられます。速度も全速力だと馬くらいのスピードが出ます。燃費も結構ええので、少量の魔力水で動かせます。まあ、もっとでかいやつを作りたかったんやけど、大きさはこれくらいが今の限界ですわ。それでも、結構な優れもんを作れたんで、報告させてもらいました」
シンが飛行船のスペックを説明する。
前回の試作機とは比べ物にならないくらい、ハイスペックになっているようだ。
「試運転は済んでるんですか?」
リーツが質問をした。
「何回か動かしたからバッチリや。てか、報告してへんかったか?」
「え……? あー、最近ローベント家では、色々あったので、見逃していたかもしれません」
「ああ! そう言えば、体調崩されてんやったな! 大丈夫なんですか?」
「あ、ああ、私は大丈夫だ」
どうやら、毒を盛られたタイミングで試運転をしていたらしい。
私は意識絶え絶えだったので、その間の出来事など覚えているわけないし、リーツは仕事量が多すぎて見逃してしまっていたのだろう。
「それなら良かったです。試運転はとっくに済ませて、飛行船がきちんと飛ぶことは確認済みや。どや、凄いですやろ」
シンはドヤ顔でそう言った。
確かに凄いのは間違いない。
まだそんなに時間は経っていないのに、開発に成功するとは。
シンは飛行船に関しては天才だ。
もしかすると、エナンの力もかなり助けになったのかもしれない。
「移動するのに使ったり、輸送に使ったりできますで。武器とかを積んだら、軍事用にも利用可能ですわ。敵の魔法や矢が届かん位置から、攻撃できるんとちゃいますかな。使い方によればめっちゃ強いと思います」
今度はシンは使い方について説明をした。
「高い位置から攻撃する場合、弓は有効射程が伸びるけど、魔法も同じく伸びるからね。さらに魔法使いの腕によっても射程は伸びる。この船にシャーロットやムーシャを乗せれば、敵の攻撃が当たらない距離から、一方的に魔法を撃てるから、敵からしたら脅威以外の何者でもないよ」
とロセルが船の説明を聞いて、率直に意見を言った。
「飛行時間はどれくらいなんですか?」
リーツが質問した。
「出す速度にもよりますが、うまいこと考えれば三日はぶっ通しで飛べますで。まあ、早く移動するとなると、12時間くらいしか持ちませんが」
三日か。思ったより遥かに長い時間飛べそうだ。
空を飛んでいるので、もちろん地形を無視して移動もできる。
結構な距離を移動できるかもしれない。
ミーシアン内の移動なら、移動先で燃料を購入すれば可能だ。
飛行船の動力源となっているのは、風属性の魔法だ。そのため燃料は風の魔力水ということになる。
風の魔力水の原料である風の魔力石は、ミーシアン内ではあまり採掘できない。
サマフォース大陸全体では埋蔵量の多い魔力石である。
ただ、戦闘では強くなく、ほかの使い道も多くないので、今のところ積極的に採掘されてはいないようだ。
なので価格は安いのだが、大量に仕入れるのは難しく、ミーシアン内ではあまり出回っていない。
まあ、燃費が良いらしいので、そんなに大量に仕入れなくてもいいかもしれない。少量なら、センプラーやアルカンテスなどの大きな都市には売ってあるからな。
「わたくし一度乗ってみたいのですが、可能ですか?」
とリシアがそう質問をした。
「乗れます! 定員は十五名ですが、十人前後は船を動かすんに必要になりますんで、追加で乗れるんは五名程度になります」
「それはよかったです。皆さん乗りましょう!」
リシアが笑顔で言った。
「え、えと、お、俺も乗らないと駄目? めっちゃ高いんでしょ? 下から見上げるだけで十分というか……」
ロセルはだいぶビビっている様子だった。
「ロセル怖いのかぁ。男としてそれでいいのか?」
「な、た、高いところは誰だって怖いでしょ!」
シャーロットが煽るので、ロセルは反論する。
「安全性はバッチリやから怖がることはないで。万が一船に不具合が起きて墜落しても、風魔法で落下速度を緩められるようになっとる。幸い、ローベント家一の魔法兵のシャーロットさんもおるんやから、万が一でも死ぬことはないやろ」
「うん。やばくなったらわたしが風魔法で皆を助けるよ」
シンとシャーロットの二人がロセルを説得する。
「それなら……まあ、乗っていいかも」
安全だとわかるとロセルはそう言った。
恐怖心はあるが、飛行船そのものには彼も興味があるのだろう。
「それでは準備を始めますんで、しばらくお待ちください」
シンはそう言って飛行船を動かす準備を始めた。
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