第268話 面談終了後
ボロッツが帰っていき、何とか面談を終わらせることは出来た。
「リーツ。私はいつも通り振る舞う事が出来ていたか?」
「ばっちりでしたよ。僕の方が怒りを押し殺せていたか、少し不安ですね」
「それは間違いないな」
仮にリーツが怒っているとばれても、特に問題はないだろう。
こちらが怒っている原因については、向こうも良く知ってるだろうからな。
「流石にちょっと疲れたから、寝室に行く……」
「あ、はい。お供いたします!」
私はリーツと一緒に寝室に向かった。
〇
会談を終わらせた後、ボロッツはプレリード砦へと帰還していた。
(完全に解毒が成功した……というわけではなさそうだったな。時折苦しそうな表情を見せる時があった。しかし、大幅に症状を緩和できたのは事実のようだ。ゼツは一か月ほどで死ぬと言っていたが、少なくとも死んでいないのは事実だし、会話することは可能なくらい症状も軽い)
馬に乗りながら、先ほどの会談について考えていた。
(完全に解毒が成功していないということは、また悪化していくという可能性もあるが……いや、恐らくアルス・ローベントは死なないだろう。目が死んでいなかった。解毒する方法を見つけた可能性がある。家臣たちが動揺しているという感じでもなかった……)
自分の戦略の失敗をボロッツは悟った。
(まあ、鑑定眼自体を使い辛くさせただけで、とりあえずは良しとして置こう)
先程の会談で、アルスの鑑定スキルについて詳しい風を装って話をしていたのは、意図してのことだった。
そうすることで、人材発掘をする際、サイツからの密偵であるという事を警戒せざるを得ないので、人材発掘することが難しくなる。
実際は、ボロッツはゼツからちょっとだけ話を聞いただけで、全く詳しくはない。結局、鑑定結果を偽装する方法も、教えては貰えなかったので、密偵など送り込むことは不可能である。
(ただ……現時点でローベント家の戦力が非常に強力なのも事実だ……特に魔法兵が厄介だ。野戦ならまだしも、攻城戦だと、強力な魔法兵が存在するだけで、一気に落としにくくなる。経済も順調のようで、資源も豊富にあるだろうし、カナレを計略なしで落とすのは、難しいだろうな)
カナレは落とせない。ボロッツはそう結論を出した。
(一度、総督閣下と話をするべきだな。ミーシアンとの戦は恐らく避けられないはずだ。今後どういう戦略を取るべきか、献策をしなければ)
〇
会談が終了して、数日後。
サイツ軍はその後あっさりと撤退していった。
こちらから撤退を要請したとは言え、あまりにもあっさり撤退していったな。
野盗退治という建前がある以上、もうちょっと粘ると思ったが。
まあ、引くと決めたら、早い方が良いしな。兵糧も無駄になるし
とにかく、私の無事を信じてくれたようだ。
これで戦を回避するという目的は達成できた。
ひとまずは安心していいが……
あとは私の毒を本当に解毒できるかだな。
体調に関して……正直、だいぶ悪化してきている。
立つのも苦しい。苦痛で眠れない状態が続くときもあるので、体力をかなり消耗している感じがする。
流石に限界が近づいてきているのを感じた。
気合で何とかするにも限度があるし、早くヴァージが帰ってこなければ本当に死んでしまうかもしれない。
何とか耐える事数日経過。
ヴァージがカナレ城に帰還した。
「それじゃあ解毒魔法使うよ~」
シャーロットの気の抜けた声が聞こえてきた。
私は今、野外にいる。もう歩くのも難しい状態なので、リーツに運ばれて外に出た。
解毒魔法は大型の触媒機を使用する。大きさ的に屋内には運び込めないので、野外で行うことになった。
現在季節は冬だ。厚着をしているが、それでも少し寒い。
妻のリシア、リーツを始めとした家臣たちが、固唾を飲んで見守っている。
シャーロットが解毒魔法の呪文を唱え、魔法を発動させた。
光が私の体に降り注ぐ。
一気に症状が緩和されていく。
そして、すっかり体を蝕んでいた症状が無くなった。
「ど、どうですか? アルス?」
リシアが心配そうな表情で尋ねてきた。
「一気に楽になった……こんなに体が楽になったのは久しぶりだ」
「ほ、本当ですか?」
体力は大分落ちていたので、今すぐ歩けるようにはならなかったが、ちょっと休めば歩けるようにもなるだろう。
家臣たちから歓声が上がる。
「よ、喜んでいるところ水を差すようだけど、数日は様子見ないと完治したとは言い切れないと思うよ」
ロセルが冷静な意見を言った。確かに彼の言う通りである。
毒魔法で症状が緩和することは分かっていた事なのだ。
油断することは出来ない。
ただ、自分の感覚では、以前毒魔法を使ったときは、まだ若干体に違和感があったのだが、今回は完全に症状が消え去ったという感じがする。
今回は解毒に成功した。そんな確信があった。
ロセルの言葉通り、まずは一週間ほど様子を見た。
一週間たち、体調は良化の一途をたどり、症状が復活することもなかった。
私が確信した通り、解毒に完全に成功したようだ。
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