第266話 面談

 カナレの街を歩いて数日後。


 体調はやはり少し悪化していたが、歩いたことでの疲れは抜けていた。早くヴァージが毒の魔力水を買って来て、完治できればいいんだが。


 サイツには停戦の書状を送ったようだ。

 敵兵は進軍を止めていない。

 解毒がフェイクだったと見抜いているのだろうか?


 出来れば戦にはなって欲しくない。

 今の状態で敵が攻めてきても、負けない可能性は高いと思っているが、勝てたとしても兵士は犠牲になるだろうし、資源も使う必要が出てくる。

 戦は避けられるなら避けたかった。


「アルス、今宜しいでしょうか?」


 部屋の扉の向こうから、リシアの声が聞こえてきた。何か用があるようだ。


「大丈夫だ」


 すぐに返答すると、「失礼しますわ」と言ってリシアが入ってきた。

 訪問者はリシアだけでなく、リーツとロセルもいた。


「体調はいかがですか?」

「正直にいうと少しキツイが、一番苦しかった時期に比べたら、全然マシだ」

「そうですか……」


 リシアは少し心配そうな表情を浮かべた。


「それで何か用があって来たんだろう?」


 ただ体調を見に来ただけなら、リーツやロセルと一緒には来ないはずだ。


「はい、サイツ州から返信の書状が届きました。こちらをアルスにも読んでもらった方がいいと思い、持って参りましたわ。もし、体調が良くないようでしたら、読まなくても良いですが、どういたしますか?」


 リシアはそう言って、丸められた羊皮紙を取り出した。

 毒に侵された状態で苦しいとはいえ、流石にサイツの返答に関しては、直接目を通しておきたい。


「大丈夫だ。読ませてもらおう」


 私はリシアから書状を受け取った。


 書状を広げて、書いてある文章を読む。


『アルス・ローベント殿 


 書状を読ませていただきました。ご健康になられたとのこと、大変喜ばしい限りです。

 今回、兵を動かした件についてですが、州境付近にて、野盗が存在するという噂を聞いたため、出兵した次第でございます。元傭兵団の野盗なため、戦闘力が高く、確実に討伐するため多めに戦力を動かしました。

 カナレを侵略する意図はございません。

 しかし、これらの行動が、カナレにとって侵略行為に見えても致し方ないこと。

 事前に報告を忘れてしまったのは、こちらの大きな落ち度であります。

 直接謝罪に伺いたいと思っております。

 もし、問題ないようでしたら、ご返答お願いします。


 ボロッツ・ヘイガントより』


 直接謝罪したい……か、これはただの建前で私が本当に解毒に成功したのか、確認したいというところだろうな。


 野盗がいたとかいうのは、どう考えても嘘だ。

 どんなに厄介でも、野盗ごときで一万近い兵は動かさないだろう。

 野盗退治を理由にしているので、謝罪の意を示しながら、進軍自体は止めない、という戦略をとっているのだろう。


「読んだらわかると思うけど、謝罪とかは建前で、アルスの無事を直接確認したいって事だと思う。もし、これを断った場合は、アルスは無事ではないと判断して、最初の予定通りクメール砦を攻撃してくると思う」


 ロセルがそう言った。


「なるほど……そう考えると許可したほうが良いだろうか……戦はなるべく避けたいしな……ただ、私の体力が持つかどうかだが……」


 症状は確かに悪化している。

 ボロッツ・ヘイガントと会うのが、いつになるのか分からないが、明日明後日という話ではないだろう。

 面談する日になって、まともに起き上がれない状態になったら、健康になったというのが、嘘であるとバレてしまう。


 難しい判断ではあるが、ここで面談を断ると戦が起こるのは確実になってしまう。


「これ以上アルス様にご無理をかけられません……敵を全力で撃退する準備を行い、確実にサイツを撃退します」


 リーツは戦う気のようだ。ロセル、リシアも反論はしない。

 いざとなれば、戦う気でいるようだ。


 私は考えて、そして結論を出した。


「いや、面談を受けようと思う。当日、体調が持つかは分からないが、面談を受けないと戦が起こるのは確実なら、一度受けておいた方がいい」

「アルス様……しかし……」


 リーツは反対のようである。

 焦ったような表情を浮かべていた。


「アルスならそう言うと思っていましたわ。わたくしとしては止めたいという気持ちもありますが……でも、アルスが面談を受けたいと言うのなら、反対はいたしません」


 リシアは私の決断を尊重しているようだ。


「大丈夫だ。面談するだけだろう。ボロッツにカナレ城に来てもらえば、移動する労力もかからない。謝罪したいと言っているのだから来ないとおかしいしな」


 私は皆を安心させるため、自信があるような態度でそう言った。実際は不安も大きかったが、やるしかないだろう。

 戦を回避するためにも、出来るだけの事はやるべきだ。


「……承知いたしました。サイツには面談を許可すると返答したしましょう」


 リーツが覚悟を決めたような表情でそう言った。


 サイツ州との面談を受けることになった。



 ○



 サイツに対する書状は無事届けられた。

 馬の扱いの得意なものに、一刻も早く届けるようにと命じたので、数日ほどで到着したようだ。


 馬を早く走らせると、乗っている人間もかなり疲労する。書状を届けてくれた兵には、あとで特別報酬を与えないとな。


 書状にはカナレ城で会うということ、それから兵の進軍を停止することを、面談する条件とした。


 進軍の停止には従わない可能性もある。

 一応野盗退治とサイツ側は説明はしているので、野盗退治はやめると無辜の民に被害が出てしまう、とか言って断るかもしれない。


 どういう返答をしていくるかサイツからの書状を待ち、数日後。


 クメール砦にボロッツ・ヘイガントが来たので、カナレ城に案内していると、ミレーユから報告が来た。


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